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FTS INTREPRENEURS AWARD 受賞者 伊藤直也さん
住友商事株式会社 グリーンケミカルSBU
伊藤直也さん
2009年住友商事入社。アグリサイエンス部で農薬トレードに従事した後、メディカルサイエンス部の化粧品チームに配属。17年、事業会社であるブラジルの化粧品素材ディストリビューターに駐在派遣。20年度「0→1チャレンジ」に応募・採択され現職。23年10月にソニーとの共同事業が始まり本格稼働開始。
廃棄物を資源に変える! “お米の国”発、もみ殻問題を解決する「Rice Phoneプロジェクト」
住友商事株式会社 グリーンケミカルSBUの伊藤直也さんが取り組む「Rice Phoneプロジェクト」は、世界の農業を大きく変革する可能性を秘めている。彼らが目をつけたのは、米を生産する際に発生する農業廃棄物「もみがら」だ。じゅうぶんに成長した稲は、穂にたくさんの“もみ”を実らせる。このもみを収穫し、外皮であるもみがらを取り除いた部分が食料となる米(玄米)だ。もみがらは、もみの20%ほどの質量があるのだが、これまでそのほとんどが農業廃棄物となっていた。その量は、日本国内で約200t、全世界では約1億tにものぼるといわれている。
「このもみ殻からシリカ(ケイ素)を抽出して、化粧品や半導体、タイヤの素材などに活用しようという取り組みが『Rice Phoneプロジェクト』です。スマートフォンにもみ殻由来のシリカが使われるような状況になったら面白いと考え、プロジェクト名にしました。シリカの抽出だけではなく、籾殻自体をバイオマスエネルギーとして利用することや、ソニーグループの共創により、シリカ抽出後の籾殻炭を、多孔質活性炭の製造にも活用することで事業性を拡大することも検討しています」
2020年に住友商事の社内起業制度「0→1(ゼロワン)チャレンジ」に応募、採択されてスタートしたプロジェクト。当初は苦労も多かったようだ。
「会社の中で誰もやったことがない事業のため、正解がまったく分からないままのスタートでした。半導体・タイヤ素材や、バイオマスエネルギー、活性炭は自身のキャリアとしてもまったく経験のない分野なので、専門性を得るために一から勉強しなおしました。ただ異業種間のネットワークをつなぎ合わせるという総合商社の強みを活かせることは大きかった。共同事業をしているソニーを筆頭に、協力パートナーの発掘・関係構築は比較的スムーズに行えたことでプロジェクトを前に進めることができました」
イントレプレナーとして大切にしていることは?
「個人としては、いままでの仕事のキャリアを捨てて、ゼロから新しい試みに挑戦する気概。そして、それを面白いと思えるマインドセット。さらに新規事業に挑戦する仕組みを会社が作った場合に、会社・上司を信頼する力。ひとりで進んでいくことに耐える力などが必要だと感じています」
企業側が整えるべき環境とは?
「制度を整えるだけでなく、本当に新規事業を興す必要があると会社・経営層が思っていることを行動で示し、社員から信用してもらうことが重要なのではないでしょうか。従来の企業の管理方法(目標・計画・PDCAなど)は、既存事業を改善し、向上させていくための手法としては優れていますが、新規事業・イノベーションを起こしていく手法には向いていない。実際に、自身の経験として、新しい事業アイデアは、たとえば飲み会などでの会話で偶発的に生まれることが多いんです。実は、もみ殻のプロジェクトも、かなり当初の姿とは変わっています。新規事業は活性化していくためには、『目標・計画を定めないことを我慢すること』、『PDCAサイクルを回さないこと』、『偶然性を容認して、後押しすること』など、従来とは異なる方針を受け入れることが肝要だと考えています」
伊藤さんは、大きな問題意識を持ちながらプロジェクトに取り組んでいる。
「現在、もみ殻の大部分は廃棄物です。焼却時に発生する煙や悪臭が環境汚染、健康被害の原因にもなっています。米が主食の国に生まれた人間である以上、そういう現状を解決したいという思いが強くあります。もともと住友商事に入社する際、『さまざまな人とともに新しいことを、グローバルレベルで実現したい』と思っていました。いま、その思いをあらためて感じながら日々仕事をしています」