入山章栄教授の「最新スタートアップ講座」vol.04️ 「日本らしいスタートアップで世界を目指す」

日本の起爆剤になるようなスタートアップの登場を誰もが待ち焦がれている。そんな人間が、企業が本当に現れるのか? 日本、世界のスタートアップ界隈ではいったい何が起きているのか? 早稲田大学大学院文学経営管理研究科教授であり、長年日本のスタートアップについての研究を続けてきた経営学者の入山章栄さんにスタートアップの最新事情を語ってもらった。
100億人をターゲットにビジネスをする
課題があり、その解決策を見つける。これがスタートアップの第一歩。だが、その解決法がマーケットに需要がなければビジネスは成立しない。入山教授はこれからのスタートアップは、最初から世界をマーケットとして考えるべきだと語る。
「日本のスタートアップは、グローバル戦略が大きな課題です。日本はこれから人口が減っていき、1億人くらいのマーケットになっていきます。一方世界では人口が増えていていずれ100億人を超える。100億人がマーケットになりうるのに、1億人だけをターゲットにしていてはビジネスの成長にも限界がある。そのために必要なのは、やはり語学力。そこがスタートアップに限らず、日本のビジネスの大きな弱点だし、これからクリアしていかなければならない課題だと思っています」
テクノロジーの進化で、AI翻訳などのサービスも充実してきた。語学の壁は、以前より低くなっているのではないだろうか。
「会議などの会話は、AIが的確に翻訳してくれる時代になるでしょう。でもスタートアップにおいて重視されるのは人間性。ちょっとした雑談とか、食事のときのジョークなど、瞬時のコミュニケーションへの対応にその人間の本質が表れるじゃないですか。そこまでAIが対応できるかというと、まだ難しい。だからスタートアップを目指すなら、少なくとも英語はマスターしておくべき。韓国に行くと、大学生はみんな英語ペラペラなんですよ。これも何十年と言われていることですが、日本の大学生もそうなってなきゃおかしい。語学力が上がっていかなければ、ビジネスの国際競争力も上がっていかないと思います」
“課題先進国”だからこそ
日本のスタートアップならではの強みはあるのだろうか?
「日本はスタートアップ先進国になるだけの強みをたくさん持っています。まずモノづくりの技術。これからはIoTの時代なので、モノとモノ、家電とかクルマとか住宅がデジタルで繋がっていきます。このIoTに欠かせないのが正確で精密なモノづくりの技術なんです。日本は長年、製造業の分野で世界をリードしてきました。いまだいぶ元気がなくなっていますが、技術力が落ちているわけではありません。僕もいろんな企業を見てきましたが、本当に驚くような高い技術を持っているところがたくさんあるんです。その技術を活かすアイデアがあれば、世界を驚かせることもできるはずです」
人口減、少子高齢化、都市部への人口集中、さらには地震や災害の多発、インフラの老朽化など、日本は現在、多くの課題を抱えている。だが、逆にこれらの課題は、スタートアップの出発点になりうる。
「日本は世界的に見ても“課題先進国”なんです。特に地方に行けば、課題が山積みになっていることがわかります。その状況をどう変えるかということは大きなテーマですし、世界で戦うことができるビジネスの構築に繋がります。人口減少、少子高齢化は、10年、20年経つと中国や韓国でも深刻化します。だからそのときに日本が先進的な解決法を見つけていれば、世界に向けてそれを提供できるわけです。最近、地方でのスタートアップも盛んになっていますが、課題が身近にあることは大きな強みになると思っています」
もうひとつ、日本の強みとして上げられるのが多様で多彩な文化だ。
「日本には2000年の歴史があります。アメリカなんて300年しかないんですから目じゃない(笑)。日本が誇る伝統文化、伝統工芸にもう一度目を向ければ、世界に通用する技術や美意識が埋もれている。日本食、日本建築、日本美術……インバウンドが急増しているのも、彼らが日本の文化に高い関心を持っているから。もうひとつ真逆に位置するポップカルチャーも同様です。マンガ、アニメというポップカルチャーは、もはやグローバルがマーケット。いわゆる“ファンダム・ビジネス”、日本語でいえば“推し活ビジネス”です。伝統文化とポップカルチャー、この両極端なふたつの文化は、世界でビッグビジネスになる大きな可能性を秘めていると思います」
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