【THE REALITY of STARTUP】 「ひとつの出会いが会社の未来を変えた」株式会社find 高島彬 代表取締役CEO(後編)

「落とし物が必ず見つかる世界」の実現を目指し、起業した株式会社find 代表取締役CEO高島彬さん。9年間勤めた大企業を辞め、仲間とともに意気揚々とスタートアップ。だが、思い描いていた事業はいきなり大きくつまずいてしまう。
朝起きてもやることがない日々
2021年12月、創業当初のfindが提供するサービスとして代表取締役CEOの高島彬さんが考えていたのは、落とし主と拾った人をつなぐマッチングサービスだった。
「メルカリのようなCtoCプラットフォームで落とし物を落とし主に届けることができないかと考えたんです。落とし主が拾った人に謝礼金を払い、findはその手数料をもらう。でも実際にシステムを作ってユーザーテストをしてみると、まったくうまくいかない。拾ったモノをずっと預かっているのが気持ち悪いとか、少ない謝礼のために落とし主のために届けたり、送ったりするのが面倒だとか、評判は散々。落とし物を拾う、届ける、見つかるという善意でなりたっていた仕組みをビジネスに変えるのが難しいということがわかったんです」
いきなりの挫折だった。つまずき、行き詰まり、高島さんはやるべきことを見失ったという。
「朝起きてもやることがないんです。和田と『今日なにしよう?』と話すことから1日がはじまりました(笑)。なんでもいいから仮説を立てて、とにかくいろいろなな人にぶつけました。お客さんもいないし、サービスもないから。売上はゼロなのに毎月開発費は出ていく。オリックスを辞め、findからの役員報酬はゼロでも、資金はどんどん減っていく。あのころは本当に毎日が辛かった……」
転機が訪れたのは、創業から約半年後のことだった。もがき苦しんでいた高島さんは、オリックス時代の先輩の紹介で京王電鉄の鉄道事業部の方と会うことになった。高島さんは、これまで通り“落とし物マッチングサービス”の説明をしたが、やはり反応は芳しいものではなかった。だが、その担当者は「落とし物が必ず見つかる」というビジョンには強く共感してくれたという。
「鉄道会社は、落とし物、忘れ物を預かり、保管して、問い合わせに対応して、返還するというかなり大変なことをやっている。一度その現場を見てみないかとお声がけいただいたんです。見学したら、落とし物が返還されるプロセスは、とても大変な業務だとわかりました。ただ最新のテクノロジーを使えば、業務が楽になり、コストも減る。さらに落とし主に返還できる確率も上がると確信したんです。見学後、すぐに企画書を作って京王電鉄さんに持って行ったら、『これなら実証実験をできるかもしれない』という話になったんです」
日本のよい文化を世界に広めたい
実証実験ではすぐに結果がでた。落とし物の返還率は3〜4倍に上がり、業務時間は4分の1ほどにまで下がったという。京王電鉄には、落とし主である乗客からの感謝の言葉が多数寄せられ、findのサービスは正式に採用された。
「京王電鉄さんとの出会いがなければ、会社がなくなっていたといっても過言ではない。それくらい大きな出会いでした。京王電鉄での成功体験で事業の道筋が見えました。それからは自信を持っていろいろな会社にfindを説明できるようになった。ゼロから1は大変でしたけど、1から先は想像以上のペースで進みました。京王電鉄が採用したという実績を認めてもらい、JR九州でも採用していただくことになった。そこでもさらに結果が出ると、お客様経由での問い合わせが増えていきました。考えてみれば、僕はオリックス時代、ずっと企業を相手に仕事をしていた。だから企業の考え方とか、仕事の進め方、意思決定のプロセスなどがよくわかっている。findでは最初個人をターゲットにしたビジネスを考えていましたが、それは自分の得意領域から離れていた。企業相手のビジネスのほうが自分の得意分野だったと思い出しました。それはAIで企業課題を解決していた和田も同じでした」
2023年5月にはシードラウンドで7500万円の資金調達を実施。現在は、鉄道会社のほか、百貨店やスタジアム、テーマパークなど、落とし物や忘れ物の問題を抱えている企業、施設からの問い合わせが数多くあるという。一気に事業拡大するチャンスに思えるが、高島さんは「焦らずじっくり進めていきたい」と語る。
「findのセールスは一般的なSaaSと違い、現場にいって運用レベルでお客さまと業務を実行します。まずはそれぞれの現場を見て、そこにある課題を把握するところからやる。鉄道会社の場合は、1週間くらいバックヤードに入らせてもらって、そこで働く人たちと一緒に業務をしながら、どうすればいいかを考えました。毎回1週間は難しいかもしれないですけど、最低でも2、3日は現場を見て、そこでどんな人がどんなふうに仕事をしているのかを現場レベルで共感します。これを続けることで、findには落とし物を返還するサービスの知見がどんどんたまる。そうやってサービス自体をどんどんブラッシュアップして、サービスの足腰を鍛えています」
いずれは世界にfindのサービスを広げていきたいと語る。
「落としたものが見つかるって他の国では考えられない、日本のよい文化でもある。これが日本発の文化として世界に広がっていったらうれしいじゃないですか。海外に行くとUberやPaypal等のインフラとなっているサービスロゴはあちこち見られますよね。あんなふうに世界中のいろいろな場所でfindのロゴを見るようになるのが夢です。まさに落とし物が必ず見つかる世界。自動車やアニメなどに次ぐ、日本のよい文化を世界に。時間がかかってもそれを実現したいと思っています」
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