【THE REALITY of STARTUP】 「ひとつの出会いが会社の未来を変えた」株式会社find 高島彬 代表取締役CEO(前編)

2024.06.13
#起業家インタビュー

「落とし物が必ず見つかる世界」の実現を目指し、起業した株式会社find 代表取締役CEO高島彬さん。9年間勤めた大企業を辞め、意気揚々とスタートアップの荒波へと飛び込んだ彼を支えていたのは、自らの体験からくる強い思いだった。

同じような経験を他の人にしてほしくない

2021年12月に創業した株式会社findは、落とし物を見つけるための新しいサービスを提供している。落とし物を保管する企業や場所が、落とし物の画像と情報をスマートフォンアプリ「find scan」で登録。落とし主からチャットで問い合わせが来ると、データベースとなっている「find search」で検索し、該当する落とし物を探す「落とし物クラウドfind」。すでに京王電鉄やJR九州が採用し、その効果を実証。多くの事業者からの問い合わせが殺到しているというサービスの原点は、代表取締役CEOの高島彬さん自身の体験にあった。

「恥ずかしい話ですが、会社員時代、飲み会の帰りにPCや自宅の鍵などが入ったバッグをどこかに忘れてしまったんです。翌日、立ち寄った店や利用した交通機関に問い合わせたんですが、とても時間がかかり、逆に相手の仕事が僕のせいで滞ってしまって申し訳ない気持ちになったり。結局バッグは見つからず、本当に悔しく情けない思いをしました。こういう経験を他の人にしてほしくない。落とし物が必ず見つかる世界になってほしいという思いが、findの創業に繋がりました」

父は町工場の経営者。親戚や近所にも商店主や経営者の家庭が多かったという。

「だから子どものころからなんとなく僕も将来は社長になると思っていたんです(笑)。オリックスに入社したのも、この会社なら経済や社会のシステムを勉強できると思ったから。いつか自分の会社を作るための修行のような気分で、働いているうちに自分のやりたいことが見つかればいいなと思っていました」

10年後に後悔しないために

9年間勤めたオリックスでは、法人営業とスタートアップ支援の業務を担当した。

「オリックスでは目の前の仕事をやっているだけで世界が広がり、仕事にやりがいを感じていましたし、このまま会社に残っていれば面白い仕事がどんどん生まれてくるだろうと思っていました。でもスタートアップとの事業開発を担当して、どんどん成長していくチームを間近で見たり、彼らの言葉を聞いたりしているうちに、自分もやりたいと考えるようになっていきました。特に海外の起業家は『世界を変える』みたいなことを熱く語るんです。彼らに『Akiraはどんな社会を作りたい? そのために今の会社でどんなことをしているんだ?』と真っ直ぐに言われると、本心から語れる言葉がなくて。自分も彼らが見ている景色を見てみたいと思うようになりました。10年後にやらなかったことを後悔するんだったら、やって失敗して後悔するほうがいいんじゃないかって」

のちにfindの共同創業者となる和田龍さん(現find COO)との出会いもこのころ。意気投合した二人は、起業に向けて互いのアイデアを持ち合うようになったという。クラウドでのワインセラーサービス、サーファーとサーフィンガイドのマッチングサービス……1年以上、アイデアを出し合う日々が続いた。だが、10以上あったアイデアは、いずれも「ボツ」。そんなときに起きたのが、高島さんの“落とし物事件”だった。高島さんが「落とし物が見つかる世界を作りたい」という思いを和田さんに伝えると、和田さんも「人生を賭けるに値するテーマだ」。かくして、彼らはfindを創業。自己資金のほか、銀行の創業融資、先輩起業家からのエンジェル投資を募り、6000万円ほどの創業資金でスタートした。

「お金を稼ぎたいとか、有名になりたいとか、社長になりたいとか、そういうことではなくて、自分が人生をかけてやりたいことが見つかったという感じでした。起業ってうまくいかないことがほとんど。そんなときでも自分が信じたテーマなら走り続けられると思ったんです」

明るい未来が待っているように思えた。走り続ける覚悟もあった。だが、「世界を変える」と意気込み、会社まで辞めて起業した高島さんの目の前には大きな壁が立ちはだかっていた。

[以下後編]

新着記事