NFTブームのその先へ。スタートバーンが描く「価値の構造革命」

2026.01.08
#スタートアップニュース

狂乱の冬を越えて見えた「本質」

2021年頃に世界を席巻したNFTブーム。デジタルデータに数億円の値がつくニュースが飛び交い、多くの企業がゴールドラッシュのように参入した。しかし、投機的な熱狂は去り、市場は一時「冬の時代」とも呼ばれる静寂を迎えた。

その狂乱と静寂の双方を冷静に見つめ、着実にインフラとしての地盤を固めてきた企業がある。アートブロックチェーンインフラ「Startrail(スタートレイル)」を展開するスタートバーン株式会社だ。同社は近年、集英社とのマンガを高付加価値化する事業共創など、伝統的なアート作品の枠を超えた文化資産へのインフラ提供を加速させている。

CEOの施井泰平氏とCOOの太田圭亮氏は、この数年を「単なるブームの終わりではなく、社会実装への選別期間」だったと振り返る。

そして今、金融トレンドの変化(ステーブルコインの台頭)や、グローバルな政治背景(トランプ政権等のWeb3推進)を追い風に、彼らの事業はアートという枠を超え、日本の産業構造そのものを変えうるフェーズに突入しようとしている。

なぜ彼らは「アート」から「文化全般」へと領域を広げたのか? テクノロジーはいかにしてコンテンツの価値を「資産」に変えるのか?

スタートバーン経営陣へのインタビューから、今後の「WEB3市場の再定義」や「テクノロジーによる収益構造の変革」について紐解いていく。

【市場のリフレーミング】なぜ「アート」から「文化全般」へ広げたのか?

「アート」の定義を書き換える

スタートバーンは創業以来、現代アートの真正性担保や来歴管理を主軸としてきた。しかし現在、その対象領域は漫画、アニメ、伝統工芸、そして一般商材へと拡大している。一見、路線変更のように見えるこの動きだが、施井CEOの視点は一貫している。

「ブロックチェーンと相性が良いものは、すべてアート(に近い)である」

施井氏はそう断言する。ここでの「アート」とは、美術館に飾られる絵画だけを指すのではない。「時間軸を意識し、後世に残すべき価値があるもの」という定義だ。

かつて、浮世絵は単なる大衆娯楽(エンターテイメント)として消費されていたが、数百年という時を経て、現在は美術館に収蔵されるアートとなった。現代の漫画やアニメ、あるいはデザインプロダクトも同様だ。今は「エンタメ」や「消費財」として扱われていても、未来には「文化遺産」になり得るポテンシャルを秘めている。

テクノロジーによる「来歴管理」の民主化

これまで、作品がどのような経路を辿ってきたかという「来歴」の管理は、サザビーズやクリスティーズのようなトップオークションハウスが扱う超高額作品だけの特権だった。膨大なコストをかけて調査し、真正性を担保することで、数億円という価値を維持していたのだ。

しかし、ブロックチェーン技術はこのコストを劇的に下げた。ICチップひとつで、誰が作り、誰が所有し、どこへ渡ったかを永続的に記録できる。つまり、「来歴管理の民主化」が起きたのである。

これにより、これまで「使い捨て」「消費」が前提だった漫画の原画や、アパレル、玩具といった領域にも、「資産としての管理」を持ち込むことが可能になった。スタートバーンが領域を広げたのは、市場を広げたのではなく「本来アートのように次世代に大切に継承するものとして扱われるべきものが、技術的制約によって短期的に消費されていただけ」という事実に気づき、そこへソリューションを提供し始めたからに他ならない。

「100年残す」というフィロソフィーの共有

この市場の再定義は、顧客の選別にも機能している。 NFTブーム期には、「NFT化すれば一発儲かる」と考える短期的な投機筋も群がった。しかし、スタートバーンが提示する「作品を長期的な資産として管理する」というスタンスは、そうした層とは合致しない。

結果として残ったのは、集英社に代表されるような「自社のIP(知的財産)を、責任を持って次世代に残したい」「安易な市場操作や乱売を防ぎたい」という強い意志を持つパートナーたちだ。

市場規模が小さい、あるいはニッチだと見られる領域でも、「時間軸」という切り口を加えることで、獲得可能な最大市場規模(TAM)を劇的に再定義できる。自社のプロダクトは「消費されて終わるもの」か、それとも「時を経て価値を増すもの」か。この問い直しが、事業のスケールを決定づける。

【新たな潮目】ステーブルコインが変える「収益の自動化」

「Web3の冬」を溶かす金融トレンド

インタビューの中で特に熱を帯びて語られたのが、「ステーブルコイン(法定通貨連動型デジタル通貨)」の影響力だ。

日本の金融庁によるステーブルコインの法的位置づけの明確化、そして米国におけるトランプ政権による暗号資産への積極的な姿勢など、Web3を取り巻く環境は劇的に好転している。施井氏曰く、「金融庁がここに来て英断的に認可を出したことで、日本市場におけるゲームチェンジャーとなり得る」という。

摩擦なきグローバル決済と「プログラマブル・マネー」

これまで、ブロックチェーン上で権利の移転(NFTの売買)はできても、対価の支払い(決済)には課題があった。ビットコインやイーサリアムは価格変動が激しく、企業間の決済には不向きであり、日本円に戻す際の手間やタイムラグ、そして何より払わなければいけない税金も大きかったからだ。

しかし、ステーブルコインの普及はこれを一変させる。 例えば、海外の富裕層が日本の高額な漫画アートを購入する場合を考えてみよう。

即時決済: 銀行送金で数日待つ必要なく、デジタルドルやデジタル円で即座に着金する。

完全自動化された分配:これが最も重要だ。売買が成立した瞬間に、スマートコントラクト(自動契約プログラム)が走り、出版社、作家、プラットフォーム、そして必要であれば還元金までが、自動的に分配・送金される。

これまで「二次流通への還元」は理念としては美しかったが、実務上の決済手段や経理処理の複雑さがボトルネックとなっていた。ステーブルコインという「プログラマブルなお金」がインフラに乗ることで、真の意味で「権利と収益が一体となって流通する経済圏」が完成する。さらに、このような自動契約実行環境は、近年急増しているAIエージェントによるオンライン取引と極めて相性が良いという点も、大きな可能性の一つと言える。

越境ECにおける圧倒的優位性

加えて、円安を背景とした越境EC(海外販売)において、この仕組みは強力な武器となる。 海外のコレクターにとって、真正性が担保され(偽物ではない)、来歴が明確で、かつ自国の通貨感覚でスムーズに決済できる日本のコンテンツは、極めて魅力的な投資対象となる。

日本のIPビジネスは、「安く大量に売る」モデルから脱却しきれていない。しかし、このインフラを活用することで、グローバル富裕層に向けた「高付加価値ビジネス」へと転換する道が開けるのだ。

現状では、高額なステーブルコイン取引に制約があるものの、可能性の扉が開いた意義は大きい。

【未来の競争優位】「来歴」によるLTV(Life Time Value)の最大化

顧客のLTVではなく、「プロダクトのLTV」を上げる

スタートバーンが描くビジネスモデルの核心は、「LTV(ライフタイムバリュー)」の捉え直しにある。通常、LTVといえば「一人の顧客が生涯でいくら使ってくれるか」を指す。しかし彼らは、「一つのプロダクトが生涯でいくらの価値を生み出すか」に着目している。

これまでのモノ売りビジネスは、一次流通(新品販売)で100の価値で売れば、そこでメーカーの収益は終わっていた。その後、メルカリやオークションで転売されても、メーカーには一銭も入らず、情報も途絶える。

スタートバーンが目指すのは、この「作品誕生後」の価値最大化だ。

「来歴」=価値の増幅装置

モノの価値を決めるのは、物理的な品質だけではない。「誰が持っていたか」「どんなストーリーがあるか」という「文脈」が価値を跳ね上げる。

所有者の来歴: 「無名の人が持っていたバッグ」と「著名な女優が愛用していたバッグ」。モノは同じでも、後者は場合によっては数倍の価値になる。

イベントの来歴: 「ルーブル美術館で展示された履歴のある作品」は、それだけで箔がつく。

メンテナンスの来歴: 「メーカー公式の工房で修復された履歴」があれば、中古品でも安心して高値で取引される。

Startrailのブロックチェーンインフラは、こうした情報を改ざん不可能な形で積み上げていく。つまり、時間が経てば経つほど、そのモノに「厚み(ストーリー)」が付加され、価値が上がっていく仕組みだ。

施井氏が語るように、通常100で売っているものが、真正性と限定数の証明を加えることで120の価値評価で売れ、さらにそれが二次流通での還元金を得ることで10が加わり130になる。さらに修復依頼を20で受けることで150になり、途中来歴が加わり物の価値が向上し、三次流通の還元金で20が加わる。結果的に一つの商品から得られる収入が170になるといった形でLTVが最大化していくという。

このサイクルを管理することで、IPホルダーは一度の販売で終わらない。永続的な収益源を確保できるだけでなく、販売後のクオリティコントロールや顧客接点の創出、流通分析を可能にする。これは、アート業界のトップギャラリーが長年かけて培ってきた流通管理手法を、テクノロジーによってあらゆる商材に適用する試みとも言える。漫画、伝統工芸などの文化全般のみならず、日本酒やアパレルなど様々な一般商材にも広げられ、加えて海外でさらに価値を上げることもできる。

※CEO施井氏が描いた来歴による価値の増幅構造

【数十年後のビジョン】インフラとしての「Intel Inside」戦略

「黒衣(くろこ)」としてのブランド戦略

インタビューの終盤、スタートバーンが目指す10年後、20年後の姿について問うと、非常に示唆に富んだ答えが返ってきた。

「ユーザーがブロックチェーンを意識しないで日常利用するようになった世界こそが、我々が目標とするものだ」

彼らが目指すのは、表舞台で派手に目立つサービスではない。パソコンにおける「Intel Inside」や、クレジットカードにおける「VISA」のように、「信頼の証として、当たり前に裏側に組み込まれているインフラ」だ。

例えば、将来私たちが高級時計や限定スニーカーを買う時、スマホをかざせば「Startrail」の証明画面が出る。ユーザーはそれがブロックチェーンかどうかなど気にしない。ただ、「このマークが出れば本物であり、来歴が保証されている」と認識する。いわば「デジタル時代のパスポート」のようなポジションだ。 

淘汰と統合の先にある勝者

COOの太田氏は、今後2〜3年で業界の淘汰がさらに進むと予測する。雨後の筍のように乱立したWeb3企業や独自チェーンは整理され、本当に実用性のあるインフラだけが生き残る。

スタートバーンは、派手なトークン発行による資金調達や、一過性のバズを追わず、地道にAPI/SDKの開発や、知財・法務面での信頼構築を行ってきた。また、海外での価値の評価のされ方と、それに合った価値構造の可視化ノウハウを積上げてきた。そして時には芸術祭の企画を行ったり、メインの事業からは少し離れたNFTスタンプラリーやNFTチケッティングサービスを展開したりもしてきた。その「余計なこと(に見えるような作業)」の蓄積が、Googleが検索エンジンの裏側で膨大なインフラを築き、生成AI戦略でも強みとなっているように、数年後に圧倒的な参入障壁となって現れるだろう。

日本発、グローバル・スタンダードへの挑戦

今回のインタビューを通じて浮き彫りになったのは、スタートバーンという企業が、単なる「ITベンチャー」の枠を超え、「価値の概念そのものをアップデートしようとしている」という事実だ。

日本は「失われた30年」の中で、良いモノを作っても安く買い叩かれる状況に甘んじてきた。しかし、彼らの提示する「真正性の証明」「来歴による価値の蓄積」や「グローバルな還元の自動化」は、日本のコンテンツ産業が再び世界で「稼ぐ」ための強力な武器になり得る。

起業家や新規事業担当者にとって、この事例は多くのヒントを含んでいる。 「自社の商品は、販売後も価値を持ち続けているか?」 「見えない『文脈』をデータ化することで、新たな収益源を作れないか?」 「一過性のブームではなく、10年後のインフラになるために、今『地味で面倒なこと』に投資できているか?」

NFTバブルの崩壊は、終わりではない。本質的な価値創造の競争が、いよいよ始まった合図なのだ。

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