5つの価値軸で読み解く FTS INTRAPRENEURS AWARD 2025 受賞3事業の強み

日本を元気にするイントレプレナーを讃える「FTS INTRAPRENEURS AWARD 2025」。今年も昨年に続き、3名の受賞者が選出されました。彼らの共通点は、自分の課題感を起点に、企業資源を活かして解決策を形にしたこと。本記事では、3名が立ち上げた会社・事業の特徴とポイントを整理し、新規事業のヒントを探ります。
新規事業における5つの提供価値
新規事業を立ち上げる際に必ず問われる「競合サービスとの違い・優位性」。
多くの新規事業における顧客への提供価値は「安さ」、「簡単さ」、「早さ」、「選択肢の多さ」、「質の高さ」という5つに分類することができ、この5つの提供価値をいかに打ち出せるかでサービスリリース時から急成長できるかが決まる。
例えば、最初のiphoneが発売された当時の価格は競合のスマートフォンよりも何倍も高い価格だったが、飛ぶように売れた。
理由は音楽プレイヤーと携帯電話両方の機能を兼ね備えているため、両方購入した際の価格と同等の価値があるとスティーブジョブズは説明し、顧客の納得感を醸成する訴求を行っていたからだ。
このように価格が他製品よりも高くても他の提供価値が圧倒的に優れていれば顧客は購買行動を行う。
この5つの価値軸をもとに各事業の解説をおこなっていきたい。
株式会社fufumu
株式会社fufumuは、「子育てに『ふふっ』と“ゆるさ”を、そして『ふむふむ』と“確かな情報”を」という想いを掲げ、「お子さまのはじめてのひとくち」が気になる食材をフリーズドライにした新しい形の離乳食「paqupa(パクパ)」を販売しているキッコーマングループ発のスタートアップ。
起案のきっかけは代表取締役社長である大嶋 麻里子氏の「慣れない離乳食の準備はあれもこれもと大変」「新しい食材をはじめるとき、本やホームページなどによって書いてあることが様々で、何を参考にすればいいのか分からない」という子どもの離乳食づくりや、食物アレルギーに悩んだ子育ての原体験から生まれているため、商品においても、少量包装や“ひとくちサイズ”で使いやすさを追求していたり、フリーズドライなど加工形態の工夫で調理の手間を削減していたりと、顧客目線で様々な工夫が施されている。
-5つの価値軸における提供価値-
「安さ」:市販のベビーフードと同等かやや高価格帯。
「簡単さ」:フリーズドライ・小分けで準備・片付けの負担を軽減。家庭調理や冷凍商品より手軽。
「早さ」:水またはお湯を注ぐだけで完成。調理時間ほぼゼロは共働き家庭に響く。
「選択肢の多さ」:ラインナップが豊富で、子どもに食べさせる量を調整しやすく、従来品よりも計画的にステップアップが可能。
「質の高さ」:アレルギー専門医監修・厳選された原料・国内製造
価格以外の価値軸で強い優位性を確保し、「プレミアム時短食品」というポジションを確立できているため、ユーザーから選ばれ続ける商品へと成長を遂げたのだろう。
FL 360 (PTY) LTD
FL 360 (PTY) LTDは綿の栽培〜加工〜消費者までのサプライチェーン全体にわたり、「どこで誰がどのように」育てた綿かを可視化 (“traceability”) することで、持続可能性、公平性、信頼性を高めることをミッションとし、アフリカ南部を中心とする小規模綿農家と、グローバルの消費者やブランドをテクノロジーと透明性を通じてつなぐサービスfarmers 360º linkを提供する三井物産発のスタートアップ。
洋服などの製品についているQRコードをスキャンすると製品の原材料である綿がどこで育てられ、どのような農法・環境で収穫されたかなどの情報を見ることができ、ユーザーに可視化して伝えることで、ただ製品を買う/売るだけでなく、ユーザーとブランド、農家をストーリーでつなぐ新しい購買体験を提供している。
-5つの価値軸における提供価値-
「安さ」:従来の製品と同等かやや高価格帯。
「簡単さ」:消費者は「誰が作ったか」をワンクリックで確認可能。流通側もデータ管理が容易に。
「早さ」:デジタル基盤を活用し生産者情報をリアルタイム更新、トレーサビリティが迅速。
「選択肢の多さ」:従来は選べなかった「生産者情報付き商品」を選択可能。ブランド体験を“背景付き”で楽しめる。
「質の高さ」:環境・人権面への配慮で国際認証済の原料。更に、生産者のストーリーを写真・映像と共に楽しめる新しい購買体験として提供。
「エシカル商品」を求める層をコアターゲットに、価格競争ではなく、社会価値と透明性、ストーリーで差別化するビジネスモデル。
fufumu同様、価格以外の価値軸で強い優位性を確保しているため、サステナビリティ志向の消費者に刺さり成長を遂げている事例だ。
株式会社DIFF.
株式会社 DIFF. は、「足が喜ぶ、あしたをつくる。」をビジョンに掲げ、「足に合わない靴を無理して履くことによる痛み・不快感」を解消し、靴選びの新しいスタンダードをつくることを目指すミズノ発のスタートアップ。
具体的な事業としては、「DIFF.3D」という3Dプリント技術を活用したオーダーメイドもしくはカスタム対応の3Dプリントシューズ事業を展開予定。
糖尿病患者など、足の機能・形状・ケアが重要なユーザーに向けて、足の健康を守る靴の提供を目指している。
-5つの価値軸における提供価値-
「安さ」:従来の製品よりも高価格帯だが、オーダーメイドの医療用靴・装具よりは低コストで提供可能。
「簡単さ」:足型をスキャンするだけで製作可能で、日常で得られたデータを使って調整も簡単。
「早さ」:最短数日〜1週間程度で納品可能で、従来のオーダーメイド靴(数週間〜数か月)と比較し早い。
「選択肢の多さ」:足の左右差・疾患・歩行特性に合わせたフルカスタマイズが可能で、素材やデザインのバリエーションもデジタル上で選べる。
「質の高さ」:0.1mm単位でシューズ設計が可能。
こちらも2つの事業同様、価格以外の価値軸で強い優位性を確保し、従来製品との差別化を明確に打ち出している。
差別化の本質は“どの軸を捨て、どの軸を極めるか”
5つの価値軸で3つの事業を深ぼり、見えてきたものは「すべての価値軸を満たすのではなく、勝負する軸を明確にして徹底的に磨いている」ということ。
すべてを満たす万能型ではなく、尖った価値を提供することでこそ、顧客に選ばれる新規事業になるのだろう。
これから新規事業に取り組む方は是非参考にしてみてほしい。
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