パナソニック エレクトリックワークス社と愛媛県が挑んだ、実証実験で終わらせない社会実装 ―現場と磨いたインフラDXプロダクトのつくり方―

実証実験で終わってしまう新規事業が多い中、どうすれば「社会実装」まで持っていけるのか。
その問いに対するヒントが、パナソニック エレクトリックワークス社が、アルビト社と共同開発した予防保全型インフラ維持管理DXサービス「LD-Map」にある。
本記事では、「LD-Map」の事例をもとに“共創の進め方”や“実証から製品化に至る設計”、自治体との関係構築のリアルについて迫る。
デジタル実装で予防保全型インフラ管理を可能に
「LD-Map」は、スマートフォンによる簡易な点検記録と、AI画像解析による劣化診断を可能にしたインフラ管理DXツールで、多くの地方自治体が抱える課題の1つである、街路灯やカーブミラーなどのインフラ管理の課題解決を目指す。
管理対象を地図上で俯瞰し、時系列で劣化進行を把握できる点が最大の特徴で、これにより「事後保全」から「予防保全」への転換が実現する。
5年に1回の中間点検をスマホアプリで標準化することで、現場作業時間は従来の20分からわずか2分に短縮されるという。
さらに、劣化進行が見られる箇所にはAIが“注意”や“危険”のフラグを立て、計画的な修繕優先順位の策定をサポートする。
「LD-Map」が生まれた背景と現場のリアル
「LD-Map」の開発の起点には、地域のインフラ管理現場が抱える“静かな危機”があった。
パナソニック エレクトリックワークス社では、街路灯の国内シェアを約40%保有。
2012年以降、既存器具からLED器具への移行に伴い、照明器具は長寿命化するも、ポールの劣化管理やポールの長寿命化の取り組みがないことに課題を感じていた。
また、以前から社会インフラの維持管理における課題を認識しており、特に地方自治体の人手不足・スキル持った職員らのみの点検など、構造的な問題を実感していた。
一方、現場では「紙の台帳管理」「デジカメでの撮影」「エクセルでの整理」といった煩雑な作業が日常的に行われており、継続的な点検体制の構築は困難を極めていた。
そこで、この課題を解決するため、インフラ点検のプロダクト開発やAI解析に強みを持つアルビト社と「LD-Map」の開発をスタートさせる。
自治体との共創から磨かれた“現場仕様”のプロダクトへ
プロジェクトが大きく動き出したのは、愛媛県新居浜市との出会いだった。デジタル実装プロジェクト「トライアングルエヒメ」を通じてマッチングが実現し、
現地ヒアリングを通じて「LD-Map」の社会実装に向けた実証が始まる。
初期の段階では「スマホの操作に不慣れな職員が多い」「AIの判定が自治体の基準とズレている」といった課題もあったが、現場での意見を受けて、UIの再設計や判定モデルの微調整が迅速に行われた。
さらに、点検記録をそのまま帳票出力できる機能や、GIS連携とMapの視認性向上など、実務に即した改善が短期間で実装されていった。
特筆すべきは、こうした改善の多くが自治体職員との勉強会やフィールドワークから生まれている点である。
これは、単なる“フィードバック”ではなく、“共に開発する姿勢”による成果だった。
顧客はユーザーではなく“共創パートナー”であるという考え方
本プロジェクトの本質は、「LD-Map」が単なるSaaSやツールとしてプロダクト開発に注力したのではなく、“継続した運用を目指した仕組み”の構築にむけ、徹底的に顧客目線で事業開発を進めていることにある。
従来型のプロダクトアウトではなく、現場と共に仮説を立て、現場で検証し、現場で磨く。
この反復プロセスこそが、実証実験で終わらない社会実装を可能にしている。
そして、この共創姿勢は自治体職員にも波及し、「自分たちで使いたいサービス」への関心と責任感が、導入と定着を自然に後押ししている。
パナソニック エレクトリックワークス社とアルビト社が実践したのは、単なる行政連携ではなく、現場との共創によって社会に根ざすプロダクトを育てるプロセスだったのだ。
社会に届くプロダクトは、共創の現場から生まれる
「LD-Map」の取り組みは、単なる技術導入にとどまらず、現場の課題と丁寧に向き合いながらプロダクトを育てる共創の実践例といえる。
そこには、大企業が保有する技術や信頼性、スタートアップの機動力、そして現場(自治体)の実務知が三位一体となった価値創出の構図があった。
このように、顧客を単なる“受け手”ではなく“共創パートナー”として巻き込みながら、実証で終わらない仕組みとして社会に根付かせるアプローチは、今後のあらゆる社会課題解決型事業においても有効なモデルとなるだろう。
社会実装とは、技術を届けることではなく、運用と文化の中に“共に根付かせる”こと。
この視点を持てるかどうかが、実証実験と社会実装の分水嶺なのかもしれない。
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