“推し”への愛が新規事業になりました--大企業も参入する”推し活ビジネス”最前線

もともとはアイドル業界で“ひいき”を意味する言葉として使われていた“推し”。だが、現在、推しの範囲はアイドルからアニメのキャラクター、アスリート、VTuber、さらには歴史上の人物や刀剣や名所旧跡など、ありとあらゆるところまで広がっている。“推し”を応援する“推し活”には、日本を代表する大企業も注目、そのビジネスは日々さらなる進化を続けている。“推し活ビジネス”は日本経済の救世主になるのか? その現在地点と可能性を取材した。
“推し活”市場は年間約3.5兆円
“推し活”という言葉が一般的になったのは2021年、「現代用語の基礎知識選 2024ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされてからだ。コロナ禍でライブ活動が制限されていた当時、アイドルやアーティストはグッズ販売やライブ以外のサービスの提供に力を入れ、ファンも積極的にこれらを購入。グッズやサービスのバリエーションが広がり、“推し活”は新たな局面を迎えた。
株式会社CDGが2025年1月に実施した第2回 推し活実態アンケート調査レポートによれば、現在日本には約1384万人の”推し活人口”が存在するという。1年間で約3.5兆円が“推し活”に使われており、数字からも“推し活”が単なる趣味を超え、文化的・経済的な現象として定着しつつあることを裏付けているといえる。
この急成長の背景には、消費者の価値観の変化がある。Z世代やミレニアル世代においては「自分が本当に好きなものにお金を使う」という“自己投資型”の消費行動が伸長。推し活は「納得感のある消費」として定着しつつあるといえるだろう。また、SNSの普及によって、推し活は“共有・共感”の対象にもなり、ファン同士のつながりが新たな消費や行動を後押し。そんな“推し活”の熱量アップを多くの企業がビジネスチャンスと捉えている。
人気VTuberとコラボした加湿空気清浄機
シャープが発売した加湿空気清浄機カスタマイズサービス〈さくらみこ Ver.〉は、人気VTuberとコラボ、イラストを前面に大きくあしらい、手書きのメッセージもプリントされる“推し家電”。操作するたびにXで公募したさくらみこVOICEで喋る加湿空気清浄機は、今年2月に期間限定で販売したところ約3日で最大6ヶ月待ちとなるヒット商品となった。生活の一部に“推し”を自然に取り入れられるという点がヒットの要因となった。
マダミスファンが集うプラットフォーム
プレイヤーが殺人事件などの「謎」を解き明かすことを目的とするマーダーミステリー(マダミス)は、近年人気のコンテンツとなっている。株式会社Sallyは、コンテンツ制作含めて、ファンと共同で作り上げ、マダミスコミュニティを広げる戦略を取りながら事業拡大をしているスタートアップ。オールインワンマダミス通話アプリUZUは、初心者から上級者まで、いつでもどこでもマダミスを楽しめるプラットフォームとして、多くのユーザーに支持されている。また、ゲームを楽しむだけでなく、マダミス制作に特化した作家専用のツールも提供するなど、“推しゴコロ”をくすぐるオリジナルの仕様も注目を集めている。
画像引用元:UZU公式サイト
社員の“推し”への思いから生まれた新規事業
画像引用元:推しSta!公式サイト
「推しSta!(オシスタ)」は、東日本旅客鉄道が提供するファン向けの「推し活」支援サービス。鉄道会社ならではのアセットを活かした“推し活”をサポートしており、アーティストのライブ遠征に合わせた特別プランの提供、駅構内に設けられた“推しスポット”など、“推し活”が体験に繋がるような仕掛けが充実している。2021年度の社内ベンチャー制度で採択され、2024年にスタートしたこの新規事業の発案者は、東日本旅客鉄道株式会社マーケティング本部 くらしづくり・地方創生部門 新規事業ユニットの内堀希美さんだ。
「2020年ごろ、あるオーディション番組の出演者を“推し”ていて、彼の“応援広告”を出したいなと思ったんです。ファンがアイドルやアーティスのための広告を出す応援広告という文化は韓国にはすでにあったんですが、日本ではまだ珍しいものでした。いざ、やってみたいと思ってもどこからどう始めればいいか、写真やデザインはどうすればいいかというようなことが分からず、手をこまねいているうちにオーディションが終わってしまいました。この苦い思いをした経験から、JR東日本で応援広告をサポートできるようなサービスができないかと考え、社内ベンチャーに応募しました」
当時、JR東日本では応援広告の掲載に様々な制約があったこともあり、採択後は数回の実証実験を行い、課題を探った。いちばん大きな課題は、アイドルやアーティストの所属事務所の許可を得て、応援広告に公式の写真や画像を使えるようにするという点だったという。
「『推しSta!』自体の認知の問題もありますし、各事務所のプロモーションも多様化していますし、スケジュールの問題もあります。この点は現在も大きな課題で、私が事務所の方に説明をし、開拓する日々が続いています。価格についても、実証実験では数万円を払って駅貼りポスター広告をひとりで1枚掲出という形だったんですが、『高い』という声が多くありました。現在は複数人で1枚、1万円という価格になりました」
ファンのリアルな交流の場に
画像引用元:推しSta!公式サイト
昨年6月のサービス開始後、サービスに大きな変化が生まれた。駅ばりポスターの応援広告だけでなく、ファンを集めたツアーイベントなどの“商品”へと進化していったのだ。
「“浪江女子発組合”の応援広告ポスターを浪江駅(福島県)に掲出することになったんですが、アイドルと一緒に列車に乗車し、ゆかりの地である浪江町を訪れる新しいツアー商品を発売したところ、大きな反響がありました。駅と鉄道というJR東日本ならではのアセットを使った新しいサービスになりました」
応援広告の前に集まったり、ツアーに参加したり。ファン同士の交流が生まれるという点も好評だという。
「それまでSNSだけで繋がっていたファンがリアルに交流できるという点で喜んでいただいています。そういうファンの方々を見ると『推しSta!』をやってよかったと思えます」
内堀さんは『推しSta!』の企画を考えるうえで、気をつけていることがあるという。
「自分も“推す側”だったのでわかるのですが、こういうサービスはビジネス感が強くなると冷めてしまう。丁寧にやらないと炎上する可能性もあるので、ファンの方が作ってきた世界観を壊さないようにということは注意しています」
ビジネスとしてはまだ始まったばかり。だが、手応えは感じている。
「最初は応援広告のサービスでしたが、ファンや事務所の希望によっていろいろなことにチャレンジできればと思っています。JR東日本グループには駅や鉄道はもちろん、ホテルや飲食店、ショップなど様々なアセットがあるので、それらを活用してもっといろいろな推し活サービスを展開できればと思っています。夢は、駅を丸ごとラッピングして、そこにラッピングした電車が到着すること。そういう企画ができたら、かなり盛り上がると思います」
流行語の枠を超えて、もはや定着した感のある“推し活”。今後もさまざまな企業が参入することは間違いない。加湿空気清浄機がメッセージカスタマイズを取り入れたり、応援広告がツアーに進化したように、ファンの“推しゴコロ”に入り込む新しいサービス、イノベーションがどんどん生まれれば、日本経済の活性化にも繋がるのではないだろうか。
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