日本初のAIアナウンサーは「NEC Innovation Challenge」から生まれた!

今年1月、沖縄でふたりのアナウンサーがデビューした。琉球朝日放送で週2回、夜の時間帯のニュース番組を担当する“彼”もしくは“彼女”は、地上波では日本初となるAIアナウンサー。配信されている実際の映像を見てみると、かすかな違和感はあるものの必要十分以上の役割を担っているように感じた。このAIアナウンサーは、「NEC Innovation Challenge」の2022年度NEC賞受賞企業である韓国のDeepBrain AI社のAIアバターソリューションによって実現した――。
人材不足に悩む地方放送局
DeepBrain AI社が「NEC Innovation Challenge」でNEC賞を受賞したのは2022年度。AIアナウンサーのデビューは、そこから3年足らずで実現した。NEC メディア統括部 第二メディアグループ メディアDX推進チームの小澤明日香さんがここまでの足跡を語ってくれた。
「DeepBrain AI社がNEC Innovation ChallengeでNEC賞を受賞した数カ月後に、NEC Innovation Challengeの担当者から『メディアマーケットでビジネス化できないか』という相談がありました。そこでまずはお客様であるメディアの方の声を聞こうということで、11月に開催されたメディア向けの展示会“Inter BEE”に出展しました。正直、まだ視聴者の理解が得られないリスクもあり時期尚早で否定的な反応も覚悟していたのですが、多くのメディア、特に人材不足という課題を抱えている地方の放送局の方から想像以上のいい反響をいただき、そのなかで『挑戦してみよう』と決断してくださったのが琉球朝日放送様でした」
人材不足に加え、沖縄ならではの課題もあった。それはインバウンドが多い沖縄では、多言語での情報発信が必要だということ。インバウンドの観光客に津波警報などをはじめとする災害情報を迅速に伝えるツールとして多言語対応のAIアナウンサーがうってつけだったのだ。しかしAIアナウンサーが実際の放送で活躍するまでにはいくつかの課題があった。
「技術面でいちばん大きかったのは、日本語の問題でした。DeepBrain AI社はすでに海外での実績があり、英語や韓国語への対応はできていました。しかし彼らの社内に日本語がわかる方がいなかったということで、そこが大きな課題となりました。日本語は同じ言葉でも文章のつながりでアクセントやイントネーションが違ってくるため、その調整が難しい。DeepBrain AIの“売り”は、高度なリップシンク(音声と口の動きをあわせる技術)ということもありました。DeepBrain AI社としてはその課題の解決の道筋としてNEC Innovation Challengeに応募したということもあったようです」
デジタルヒューマンの可能性
NECの協力のもとDeepBrain AI社は技術を進化させ、AIアナウンサーはひとつの“DXソリューション”となった。
「DXソリューションとして買っていただけたということに関しては、NECとお客様との信頼関係はもちろん、NECのブランド力も大きく寄与していると思います。メディアのお客様にとってAIアナウンサーの導入というのは大きなチャレンジになりますから、どんなに高い技術があったとしても外国のスタートアップだけではなかなか難しかったと思います。そこはメディア向け事業を約100年にわたって続けてきたNECがいっしょにやっているということで安心していただいた部分はあるのではないでしょうか。NECとしては技術の検証をしっかりやってきましたし、またDeepBrain AI社もトラブルや問い合わせに対する24時間体制のサポートサービスを整えてくれました。日本のお客様は求めるレベルが高いのですが、DeepBrain AI社は『NECの成功が自分たちの成功だ』というふうにおっしゃって、課題に向き合ってくれました」
AIアナウンサーのデビューから1ヶ月。どのような反響があったのだろうか。
「放送業界での反響はかなり大きく、たくさんの問い合わせをいただいています。琉球朝日放送様と同じように人材不足に悩んでいるという地方の放送局からの問い合わせが多いです。視聴者の反応は、SNSで見る限り賛否両論はあるものの、思ったほど“否”が少ないという印象です。『クオリティ高い』『AIもここまできたか』という声も多く、そういった声をもとにさらに進化させていければと思っています」
AIアナウンサーは、アナウンサーという枠にとらわれないビジネスを考えているそう。
「技術としてはアナウンサーというよりは、デジタルヒューマンということになると思います。さまざまな企業における多言語対応の受付や案内、あるいは著名人や経営者のアバターなどさまざまな市場での可能性がある。権利問題など難しい点もあると思いますが、新たな市場も探っていきたいと思っています」
当たり前のように協業する文化
前述の通り、このAIアナウンサーの誕生に大きく寄与したのが、世界のスタートアップとの協業を目指し2022年にスタートしたNECのオープンイノベーションのビジネスコンテスト「NEC Innovation Challenge」だ。“第一期生”ともいえるDeepBrain AI社との取り組みがひとつのカタチになったのは、このコンテストにとっても大きな意味を持つ。「NEC Innovation Challenge」を担当するNEC 事業開発統括部の塙智志さんが語る。
「NECには、研究・開発から製造、販売まで“自分たちで全部やる”という社風というか文化がありました。しかし新しい、グローバルな時代を生き抜くうえで、スタートアップや事業会社と全社的、戦略的に協業していくことも必要だということで『NEC Innovation Challenge』を立ち上げました。NECとしては単純に投資してフィナンシャルリターンを得るというよりは、NECの事業にどう繋がるかということと、エコシステム型に発展させたという思いが強くあります。その意味で今回、DeepBrain AI社や琉球朝日放送様、他にも広告代理店などとともにAIアナウンサーを事業化できたということは、ひとつの成果として自信に繋がりました」
初開催が2022年というのは、スタートアップとの協業への取り組みとしては決して早くない。だが、NECには国内はもとより世界中にネットワークを持つという強みがある。
「初年度は蓋を開けてみないとわからないという感じでのスタートでしたが、幸いにも世界各国からのエントリーがありました。日本でビジネスを展開したいけど、どこから入ればいいかわからないというスタートアップが『NECならいっしょにやれる』と思ってくれたのかもしれません。3回目となる2024年は700件以上のエントリーがあり、手応えは感じています。今後の課題としては社内の“出口”との接続。AIアナウンサーは、小澤のチームにバトンを渡してうまくいきましたが、常にこういういいカタチになるとは限らない。『NEC Innovation Challenge』を担当する私たちが、社内向けのブランディングをしっかりやること、どの部門でどんな事業をしているか、新しいチャレンジに興味を持っているキーマンがいるか、などを把握していくことが大事だと思っています。そのうえで、社外のパートナー、スタートアップと当たり前のように協業する文化が生まれていくというのが理想です」
AIアナウンサーがビジネスコンテストでの受賞から3年足らずで実用化された背景には、NECという大企業の力があったことはいうまでもない。スタートアップの発想力、スピード感と大企業のダイナミズム。このマッチングこそ停滞する日本を変える大きな推進力になるはずだ。
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