「なりゆきだけど……使命感はある」PITTAN 辻本和也CEOが目指す“破壊的イノベーション”

研究者からコンサル、VCを経てスタートアップ。アントレプレナーとしてはまるで絵に描いたような経歴のPITTAN辻本和也CEO。自らを“テクノロジー信者”だと語る彼は、汗からカラダの状態を可視化する「ニュートリフル」で世界をどう変えようとしているのだろうか?
3ヶ月で10kgのダイエット
株式会社PITTANは、3分間肌にパッチを貼るだけでカラダの状態を可視化できるヘルスケアサービス「Nutrifull(ニュートリフル)」を展開する神戸のスタートアップ。同社のHPに写っている辻本和也CEOと、リモート取材の画面に現れた彼とはまるで別人のよう。実は辻本さんは自らニュートリフルを利用することで、わずか3ヶ月で10kgのダイエットに成功したそう。
「これまでいろいろなダイエットをしてはリバウンドするということを繰り返してきました。運動すれば痩せる、食べる量を減らせば痩せるって感じでやみくもにがんばっていたんですが、今回はニュートリフルで自分のカラダの状態、特にインスリンを意識したことで比較的楽に体重を落とすことができました。カラダが食べたものから糖、グルコースをどれくらい取り入れるかということは個人差があるし、ストレスの状態によっても変わります。運動も肥満ホルモンを減らす方向でやらなければあまり意味がない。総合的かつ科学的なアプローチをすることで、人類の大きな悩みのひとつである肥満を解決できるのではないかと思っています」
ニュートリフルの特長は、肌にパッチを貼るだけ、短時間で肌や筋肉の栄養成分を分析・可視化できるということ。
「技術的には血液でも唾液でも尿、あるいは涙でも同じことができます。でも日常生活のなかで気楽に簡単に利用するということを考えて、汗でやってみようということになりました。たとえば、インスリンは糖やグルコースを細胞に取り込む役割を担っていて、このインスリンがしっかり出なくなる状態が糖尿病です。でもそうなる前にインスリンのバランスを把握していれば対策を講じることが可能。糖尿病を解決することは難しいかもしれないけど、インスリンを“見える化”できれば生活習慣を改められます。医療の手前、フィットネスとかエステ、サプリなどを手掛けるプレイヤーの方々といっしょにやっていくことで、糖尿病リスクを下げる取り組みができるわけです。現在はビューティテックの分野の技術ということになりますが、私たちとしてはもっと大きな可能性もあると思っています。だからといってメディカルの分野に進出すれば成功かというと、それもちがう気がする。ひとりひとりの生活、人生に寄り添い、それぞれの価値観を大切に生きる手伝いができればいいなと思っています。たとえば、思春期の女性にとってはニキビひとつでも大問題。それを解決することで彼女の人生がポジティブになるなら、それも“健康”。病気にならないことはもちろんですが、ひとりひとりの、ひとつひとつの瞬間をポジティブに。それが、私たちが目指すところかなと思っています」
大企業の研究者としての挫折
辻本さんが同社の児山浩崇CTOとともにPITTANを創業したのは2022年。創業から3年弱でPITTANが急成長を遂げた背景には、スタートアップの裏表を知り尽くした辻本さんの経歴がある。神戸大学を卒業後、京都大学大学院に進学。医工融合の分野で修士・博士号を獲得した辻本さんが最初に就職したのは、東京にある世界最大級の半導体製造装置メーカーだった。
「メディカルとテクノロジーをどうやって融合させ、社会実装させるかというのが学生時代からの僕のテーマでした。最初の会社では研究職だったんですが、やっぱり大企業のなかではひとりの新人研究員の思いなんて叶えようもない。自分がどんな技術を持っていても、どんなにがんばっても事業の方針を考え、決めるのは経営メンバー。これじゃあ、いつまでたっても自分のやりたいことなんてできない。自分に必要なのはビジネスサイドの力だと思いました」
次に辻本さんが入社したのは、地元の神戸に近い京都の電子部品メーカー。ここでは新しいビジネスにチャレンジする予定だったという。
「その会社が使わなくなった工場の跡地でイチゴを栽培する新規事業を始めるということで、ここなら研究だけでなく開発や営業の力もつくだろうと思い転職を決めたんです。ところが採用された直後に会社の経営が厳しくなり、イチゴビジネスは取りやめ。結局、センサーの開発を担当することになりました。この会社には3年間いたんですが、正直なかなかモチベーションが上がらず。そんなとき、興味を持ったのがコンサルティングの仕事。彼らは技術に関する知識もないのにどんどん経営陣を動かしていく。技術者としては『ふざけるな』という思いもありましたが、経営を動かす技術は知りたい。そこでコンサルティング会社に転職することを決めました」
当時の辻本さんのなかには「エンジニアをやっていても社会を変えることはできない」という危機感があったのだという。転職先のコンサル会社では、さまざまなコンサルティングのほか、M&A、基幹システムの構築なども手掛けた。その後、大小のコンサルやVCで経験を積んだ辻本さんは、スタートアップへの強い思いを抱くようになったという。
自分でやるしかない
「いまの日本に必要なのはスタートアップの“破壊的イノベーション”。大企業は能力もあるし、リソースもある。かつては未来に向けた投資、研究もやっていた。でも失われた30年を経て、構造的にイノベーションできなくなってしまっている。とてもじゃないけど、いまの日本の大企業では世界的なスピードについていけないんです。でも残念なことに日本でうまく行っているスタートアップはほとんどがSaaS系。どんなに優秀であってもテック系への投資はなかなか成立しない。勤めていたVCの社長にも直訴したんですけど、やっぱり『リスクはとれない』と。それなら自分でやるしかないとなったわけです」
博士号を取り、エンジニア・研究者として働き、コンサルティングやVCでのキャリアも積んだ。そんな辻本さんがコンサル時代の仲間と立ち上げたのがスタートアップスタジオ「W」だった。スタートアップスタジオとは当時多発的、連続的にスタートアップを創出するシステム。新型コロナワクチンで知られるモデルナ社もアメリカのスタートアップスタジオから誕生したことで知られている。
「やっぱり僕はテクノロジーをライフサイエンスに使いたい。それをいちばん早く実現できる方法がスタートアップスタジオでした。僕がもっと器用であれば、大企業の研究者としてやることも可能だったかもしれない。コンサルとして優秀だったら他にやりようがあったかもしれない。でも大きな組織ではどうしてもうまくやれなかった。それはやはり大企業に勤めていたCTOの児島も同じだったと思います。スタートアップスタジオを立ち上げたことで児島と出会い、児島が研究してきたニュートリフルのもとになる技術は、僕の思いと重なる部分もあった。だから僕らが出会ったのは必然なんです。スタートアップでなければ世に出ない技術を、自分たちなら出せる。そういう確信がありました」
2022年に児山さんとPITTANを立ち上げ、翌年には辻本さんがフルコミットで合流した。まさにスタートアップをするためのような経歴を辻本さん「なし崩し的、なりゆき」と笑う。
「こういうキャリアを描こうと思っていたわけではなく、都度都度めちゃくちゃ苦しんで、眼の前の課題に取り組んできた。僕はずっと昔からテクノロジーこそが社会を変えると信じてきたんです。正直、PITTANがビジネスとして成功するかどうかとかあまり考えていないんです。確率ではなく、使命感。これをやっていくんだ、この技術で世の中を変えるんだという思いで事業に取り組んでいます」
一歩一歩、だが確実に、目指す未来を実現しようと辻本さんは日々奮闘している。彼が愛する地元・神戸から世界の健康を変える技術が生まれるのかもしれない。
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