清水建設「温故創新の森 NOVARE」が目指す建設業の未来

JR京葉線・潮見駅を降りると、巨大かつ近代的な建造物が目に飛び込んでくる。まるで美術館や高級ホテルのようなスタイリッシュな雰囲気のこの建造物は、2023年秋にオープンした清水建設のオープンイノベーション施設「温故創新の森 NOVARE」だ。
目指すはスマートイノベーションカンパニー
敷地面積は3万2200m2。「温故創新の森 NOVARE」(以下ノヴァーレ)を訪ねるとまずその規模の大きさに驚く。日本を代表する建設会社である清水建設が、500億円をかけて目指すのは建設業そのものの変革だ。
「温故創新は“温故知新”に着想を得た造語になります。『古きをたずね、新しきを創る』。ノヴァーレはラテン語で、創作する、新しくするという意味があり、Innovationの語源にもなっている言葉です。この名前からわかるようにノヴァーレは、清水建設が建設事業の枠を超えたスマートイノベーションカンパニーを目指す拠点となります」(清水建設 NOVAREプランニングオフィス 佐藤宏さん)
ノヴァーレにあるのは、情報発信・交流施設「NOVARE Hub」、研究施設「NOVARE Lab(技術研究所潮見ラボ)」、体験型研修施設「NOVARE Academy(ものづくり至誠塾)」、歴史資料展示施設「NOVARE Archives(清水建設歴史資料館)」、そして1876年に渋沢栄一からの依頼で清水建設の前身である清水組が手掛けた「旧渋沢邸」の5施設。1804年から続く清水建設の過去、現在、未来がここに集結していると言っても過言ではないだろう。
強みは「現場」と「専門家」
「現在の清水建設の売上は90%以上が建設事業です。もちろん今後も建設事業が柱であることは変わらないのですが、将来的なことを考えたときに、事業を多角化し建設事業以外での売上を伸ばすことでより強固な企業になれる。具体的には売上の3分の1を非建設で支えるというポートフォリオにしていくためにノヴァーレのプロジェクトがスタートしました」
ここ数年、大手企業がさまざまなスタートアップとの協業、共創の取り組みを行っているが、清水建設ならでは、ノヴァーレならではの“強み”はどのようなところにあるのだろうか。
「いちばん大きいのは、私たちは“現場”を持っているということだと思います。建設現場で実証実験を行いたいというスタートアップがあれば、そのための現場を用意することができます。また現場で実験する段階に達していないなら、この施設内で実際の現場に近い環境を整えることもできる。また、社内には特定の領域に通じた専門家がたくさんいます。設計から施工はもちろん、研究所に行けばさまざまな研究を行っている人がいます。こういった有形無形のアセットを提供できるのがノヴァーレの強みだと感じています」
「NOVARE LINKS」の立ち上げ
取材が行われたのは「NOVARE Hub」。建物外観のモダンな雰囲気とは一転、板張りになった室内にはたくさんの植物があり、リラックス感のあるカフェのような雰囲気。この「NOVARE Hub」で“創新”のためのさまざまなプロジェクトを担っているのが、佐藤さんら中堅社員によって組織された部署横断のワーキンググループ「NOVARE LINKS」だ。
「ノヴァーレには、スタートアップとの協業、共創を図るアクセラレーションプログラムがあり、CVCの機能もあります。また社内で起業を目指す人のための支援プログラムや、社内外技術の展開促進や新規事業創出を支援・促進するプログラムもありますし、産学連携のプロジェクトも積極的に行っています。本格的な運営が始まったのは2024年の春ですが、当初はそれぞれの部署が別々に活動していて隣の部署がなにをやっているのかも知らない。イノベーションを起こそうにも、効率もスピードも上がらない状態でした。そこで社内や社外からの提案に対して、各部署が連携しながらイノベーションの促進を図る組織として昨年の秋にNOVARE LINKSを立ち上げることになったのです」
イノベーションという言葉は耳あたりがいいが、220年の歴史があり、1万人以上の社員がいる大企業でそれを行うのは簡単なことではない。
「『イノベーションのための施設が必要だ』との強い思いでノヴァーレをつくった。そして肝心の中身、ここでどんな活動をして、どんな会社になるか、具体的なミッション、ヴィジョン、ヴァリューがとても重要だと考えている。私たちNOVARE LINKSも設計部門や施工部門で働いてきた人間がほとんど。うちの会社は建物を作るのは得意なので(笑)、これをつくるという明確な目標に向かって走るのは得意な人が多いんですが、目に見えないソフト面の目標をたて、それを実現するための組織づくりというのに慣れていない人も多かった。その点をいま試行錯誤しながら行っているという感じです」
社会にないニーズを発掘し実現していく
イノベーションのために必要なのは、社内のマインドセットを変えていくことだと感じているという。
「建設業はお客様の要望に応える請負の仕事です。お客様が思い描く建物を120%の力を注いで実現するというのがこれまでの清水建設のあり方でした。でも建設を超える“超建設”という考え方では、お客様が気づいていない部分まで把握して提案するようなこともしていかなければならない。そうやっていま社会にないニーズを発掘し、実現していくことで請負だけでない、さらに広いビジネスになっていくのではないかと思っています。イノベーションというと、斬新なアイデアに基づいてやるすごいことというイメージが社内にあり、だから『自分には関係ない』と思っている社員も多いような気がしています。私たちがやるべきことは、イノベーションというのは生活のなかの小さな気づきから生まれるということを知ってもらい、その気づきを見つけるきっかけを与えることではないかと思っています。そのためにもノヴァーレとして社内外への情報発信をしっかりやっていきたいと思っています」
試行錯誤はこれからも続くだろう。だが、彼らが見ているのは遠い未来だ。
「ノヴァーレが清水建設の成長の源泉となっていくのが理想です。“Change&Chain”というヴィジョンがあるんですが、変わり、そして繋いでいくことが大事かなと。たんに新しいことをやる、挑戦するというだけではみんなついてくることができない。清水建設のDNAを受け継ぎながら、新しいビジネスを生み出していく。そのためには外部の方の力も必要です。清水建設とともに大きなシナジーを生み出せるようなパートナーを探していきたいと思っています」
ノヴァーレの挑戦はまだ始まったばかり。渋沢邸が清水建設のアーカイブとなっているように、この近代的なノヴァーレもいずれアーカイブとして、のちの社員に会社の歴史を伝え夢や希望を与える日もくるのかもしれない。
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