世界最大級のプレシードインベスター“テックスターズ”が見た 「日本の課題と可能性」

2025.02.28
#スタートアップニュース

2006年、米コロラドで誕生したテックスターズは、現在世界33都市で活動し、これまで4400以上の企業に投資、21社のユニコーンを生み出してきた。2024年から東京にも拠点を置き、アクセラレーションプログラムをスタートした世界最大級のプレシードインベスターは、日本のスタートアップの現状をどう見ているのか。世界から見た日本の“今”について訊いた。

ローカルエコシステムを作る

東京駅に隣接したミッドタウン八重洲の一室にテックスターズのオフィスがある。大きなガラス窓の向こうに見えるのは丸の内のオフィスビル。真ん中に大きなテーブルがあり、その周りにいくつかの小さなテーブルと椅子が置かれている。整理整頓されてはいるが、ラグジュアリーではないし、スタイリッシュでもない。だが、そこには大学の研究室のような開放的で自由な空気感が満ちていた。

「テックスターズの特長のひとつは、それぞれの国に行って、その地でパートナーを見つけ、ローカルエコシステムを作っていくということです。アメリカには同じような規模のエクイティ・アクセラレーターは他にもありますが、彼らの場合、有望な起業家をアメリカに呼んで、そこで育てて世界への進出を目指します。当然シリコンバレーはいちばん進んでいますし、そこから学ぶことも多くありますが、それ以外の都市からもユニコーンは生まれているし、世界的企業も出ている。世界のさまざまな都市とつながり、知見を共有することでより大きな可能性を見出すことができると考えています。現在世界33都市に展開していますが、東京に拠点を置くことを決めたのは、日本のスタートアップシーンがそれだけの魅力を持つようになってきたからということにつきると思います。スタートアップには3つの要素が必要だと言われています。資金、人材、3つ目はいろいろな意見があるのですが、私は文化だと思っています。日本は長年大企業文化が経済の中心にありましたが、この5年、10年でかなり変わってきたかなと。実際にスタートアップへの投資額も大幅に増えていますし、政府や企業、大学などのスタートアップへの理解が高まってきたように感じています」(テックスターズ日本代表・マネジング・ディレクター 白戸勇輝さん)

日本のスタートアップを世界に

テックスターズの日本誘致に大きな役割を果たしたのが独立行政法人 日本貿易振興機構(ジェトロ)だ。ジェトロではこれまで内閣府等と連携し、テックスターズを含む海外のトップアクセラレーターと連携し、アクセラレーションプログラム(出資なし)を実施することで日系スタートアップの海外展開を推し進めてきました。「テックスターズのアクセラレーションが大きな成果を生み出すということは、過去のプログラムで理解していました。でも本当の意味で、日本発で世界を目指すスタートアップを生み出そうと思ったら、やはりテックスターズに日本で出資付きのアクセラレーションプログラムを運営してもらい、国内外のスタートアップ・インベスター・大企業を繋ぎ、日本のスタートアップエコシステムの構築と繁栄に向けて活動してほしいと考え誘致をしました。テックスターズは世界各地でセクターを問わず、出資付きのアクセラレーションプログラムを実施しています。そこに日本の官民がいっしょになって、最大限コミットしながら、日本のスタートアップを世界に送り出す。その役割をテックスターズとともに担っていければと思っています」(ジェトロ イノベーション部 スタートアップ課 園田有沙さん)

互いに刺激を受け学ぶコミュニティ

2024年8月には12社を採択し、出資付きのアクセラレーションプログラム「Techstars Tokyo」をスタート。白戸さんによると、この12社を選ぶにあたり強く意識したことがあるという。
「ダイバーシティを確保したいと思いました。採択された12社のうち、日本の企業は6社で、あとの6社は日本やアジアに繋がるビジネスを考えている海外の企業になります。また創業者の年齢とかジェンダーとかこれまでの経歴など、なるべく多様なバックグラウンドを持つ方々のコミュニティになることを意識しています。大学を出たばかりの20代前半の方もいれば、40代後半の方もいる。3回目となる連続起業家の方、女性CEOもいます。それぞれがお互いに刺激を受け、学ぶことができる。新しい視点はそういうところから生まれると思っています」
テックスターズが日本に期待するのはテック系、エンタメ系だという。

「ディープテックは世界的に伸びていく分野です。日本はヒューマンナイドロボティクスやマテリアルサイエンス、一部のバイオテックに優れた人材が多い。そういう方々にはどんどん応募してほしいと思っています。日本が世界に比べ圧倒的な強みを持っていると言えるのはエンタメ系。アニメ、マンガ、ゲームなどはまだまだ世界をリードしていて、昨年も4社採択しました。ディープテックとエンタメ、方向性は大きく違いますが、このふたつのジャンルに対する期待は大きいです」

必要なのはマインドセットの転換

スタートアップに限らず、日本企業の世界進出の大きな壁となっていると言われ続けているのが言語の問題。テックスターズのプログラムもすべて英語で行われているというが……。
「私たちは日本から世界に出ていくスタートアップ、世界から日本に来るスタートアップを応援したいと思っているのでそこは日本語でというわけにはいかないんです。でも優れたアイデア、技術があるのに言語だけを理由に尻込みして日本に閉じこもっているのはもったいない。実際、英語だったら参加できないという創業者もいました。その方には『僕がフォローします』と伝えて説得したんです。だから英語を理由に応募をためらう必要はありません。できるだけのことをしますし、なんとかなります」

日本での活動を続けてきた中で、改めて感じた日本のスタートアップ界の課題は?

「さきほどスタートアップの文化の話をしましたが、数年前から大きく変わったとはいえ、まだまだ日本ではスタートアップを応援する文化が足りていないと思います。たとえば、20代の若者がふたりいたとして、片方は大企業の社員、片方が無名の起業家だとします。日本だとどうしても大企業社員のほうが関心を集めてしまうという現状があります。そういうマインドセットの転換が必要だなと。多くの人がスタートアップに関心を持ち、彼らのチャレンジを応援したいという文化が生まれるにはもう少し時間がかかる。でも日本にはその素地があるんですよ。いまや世界的企業であるソニーもパナソニックもホンダもユニクロもソフトバンクも、もともとはスタートアップなんです。ゼロからスタートして世界にチャレンジしていく、そういうDNAは持っている。それをテックスターズがやります! 日本のスタートアップを変えます! なんて大きなことを言うつもりはないです。そんな日本の現状に少しでも風を吹かせることができたらいいなと思っています」


第2回プログラムの募集はすでに始まっている(〜5/14締め切り)。世界に出たい、チャレンジしたいという起業家は尻込みすることなく応募すべきだろう。

応募方法:Techstars Tokyoウェブサイトより直接お申し込み
https://www.techstars.com/accelerators/tokyo

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