入山章栄教授の「最新スタートアップ講座」vol.12 「大企業が本気で変わりたいと思うなら」

早稲田大学大学院文学経営管理研究科教授であり、長年日本のスタートアップについての研究を続けてきた経営学者の入山章栄さんによる最新スタートアップ講座。ここ数年、大企業がイノベーションのためにスタートアップと協業するケースが増えてきた。だが、実際の現場の声を聞いてみると、なかなかうまくいかないことも多いよう。大企業が本気でスタートアップと協業するなら、どんな心構えが必要なのだろうか。
変わらない、変えられない大企業
岸田政権下で「スタートアップ育成5カ年計画」が策定されたのは2022年11月。以来、多くの大企業がスタートアップへの投資や連携を進めてきた。しかし2年以上が経過した現在、それらが大きな成果を生んだというニュースはあまり聞こえてこない。
「政府がやれっていってるし、流行っているみたいだからウチもやってみるか、若手にやらせてみるかって感じでスタートアップとの連携を始めた企業はうまくいってないですよね。そもそも本気でスタートアップとやっていこうという企業は、ずっと前から取り組んでいるわけだし。日本の大企業の多くが業績頭打ちになっている状況があって、大胆なイノベーションが必要だということはみんなわかっている。でも変わらない、変えられないのが大企業というところ。頭ではわかっているんだけど、カラダがうごかないという感じかな(笑)。その企業の20年後、50年後を見て、多少の業績のブレがあってもやりきるんだという意識のリーダーがいて、その意識をみんなで共有できるか。本気でやるという意識改革がないままだとやっぱりうまくいかないですよね」
大企業との取組を進めているスタートアップからは、さまざまな愚痴が聞こえてくる。「意思決定が遅い」「金が出てくるのに時間がかかる」「担当者がどんどん変わり、そのたびに方針も変わる」……。
スタートアップは下請けではない
「スタートアップとの協業を“下請け”だと思っている大企業も少なくないと思います。それではイノベーションなんて起きようがない。協業は下請けではなく、対等のパートナーの関係だというのが基本です。スタートアップの持ち味は、スピードとリスクを厭わない大胆な発想。それを大企業の従来の枠にあてはめようとしてもうまくいかないのは当たり前。スタートアップと本気で組むなら自分たちが変わらなきゃならない。むしろスタートアップの力を借りて、自分たちを変えていくんだという意識が重要だと思います。任期の問題もありますよね。担当者レベルでも大変ですが、改革するんだといっていた社長が変わったら、180度方針変換になったなんて話もありますからね。やっぱり会社全体が危機感と改革への意識を共有していないとなかなかうまくいかないでしょうね」
なかなか変わらない、変えられない会社がそれでも変わりたいと思うなら?
「いちばん手っ取り早いのは、スタートアップの会社を買収して、その経営者を役員に迎えることです。スタートアップの経営者って改革を続けてきた人たちですから、企業改革に最適なんです。さらにいうならば、社長にすればいいんですよ。入社一筋、その企業で育った人はその企業の文化に染まっているから、本気で変えることなんてできないですよ。自己否定するようなものですから。それならばいっそスタートアップの経営者を社長にして本気の改革に取り組む。実際、そういう大胆な人事で業績が上がった企業もあります。自分たちで変えられないなら外から変えてもらう。それくらいの覚悟で取り組まないと日本企業の未来はないと思います」
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