市民に愛されるスタートアップ支援施設。 FGNが福岡市を未来へと導く!

2025.01.16
#スタートアップニュース

福岡市ほか地元ゆかりの企業によって運営されているスタートアップ支援施設FGN(Fukuoka Growth Next)。地域に根ざしたスタートアップ支援施設として2017年に誕生、スタートアップ都市を目指す福岡市の象徴として注目を集め、現在同様の施設の整備を進めている多くの自治体の手本となっている。多くの市民がスタートアップ関連の相談に訪れるというこのFGNを訪ね、地域と一体化して進んできたこれまでの歩みをきいた――。

小学校の校舎を施設として活用

FGNがあるのは、福岡随一の繁華街・天神。数え切れないほどの飲食店が並ぶ街を抜けて目当ての場所に行くと、懐かしい雰囲気の3階建ての建物があった。かつてこの地にあった築90年以上の小学校の建物がFGNの運営拠点だ。リノベーションされた館内は、レンタルオフィスやコワーキングスペースとして活用され、常に多くの人で賑わっている。

「スタートアップがいつでも働ける、相談できるように、年末年始をのぞき、土日祝日もオープンしています。繁華街にあること、小学校の建物をそのまま使っていることは、市民の認知に役立っていると思います。夕方から夜になると、FGNの前を歩いている若者が『ここは福岡市のスタートアップ支援の施設なんだ』って、友だちに説明していたりする。そういう光景に出あうと、だいぶ市民に浸透してきているということを実感します」(FGN運営委員会事務局・香月啓佑さん)

誰もが親しみを感じる小学校の建物は、足を踏み入れるのに抵抗感がない。中に入ってみても、長い廊下、広い階段、教室ごとに区切られたスペースなど、ピカピカのオフィスビルにはない落ち着きと親しみを感じる。実際、FGNには小学生から高齢者まで多くの人がスタートアップ関連の相談に訪れるという。

「土日も含め、たくさんの相談予約が入っています。相談内容は、スタートアップの立ち上げから、資金調達、あるいは投資の相談など内容はいろいろありますが、小学生や高齢者が『こういうアイデアがあるんだけど』と来ることもあります。実際にそれがカタチになるかどうかは別として、おもしろいアイデアが浮かんだらFGNに行ってみようと、多くの市民が考えてくれていることは、すごくいいことだと思っています」

目標はシアトル

2024年は、東京の「TiB(TOKYO INOVETION BASE)」や名古屋の「STATION Ai」など、自治体によるスタートアップ支援施設のオープンが相次いだ。この流れは全国的に広がっていて、同様の施設の設立は、今後も続くと見られている。2017年に誕生したFGNは、まさにそのさきがけ的な存在。実際、全国各地の自治体から視察や見学も数多いのだという。

福岡市がスタートアップに注力するようになったのは、2011年から。クリエイターやエンジニアなどが中心となってテクノロジーイベント「明星和楽」を開催したことがその契機となった。翌年には「スタートアップ都市ふくおか宣言」を発表。雇用創出や経済活性化を目的に国家戦略特区の認定を受けてスタートアップの法人税負担を軽減するなど、本格的にスタートアップ支援の町として走り出した。

「福岡は“支店経済”の町。東京に本社がある企業が九州支店や福岡支店を置くんですが、景気が悪くなるとサッと引いてしまう。そうすると、その周辺の飲食店なども打撃を受ける。不景気のダメージがより大きくなってしまうわけです。このような支店経済から脱却するためには、福岡市発の企業を生み出していくしかない。目標にしたのは、アメリカのシアトルでした。シアトルはニューヨークやロサンゼルスのような世界的な大都市ではないけど、MicrosoftやAmazon、CostcoやStarbucksなどの世界的な企業が生まれた町。もちろん簡単なことではないですが、実績は少しずつ重ねてきています」

福岡を代表するスタートアップを生み出す

FGNは現在、第3期にある。1期ではスタートアップ企業を集積させてコミュニティを作り、第2期では“未来のユニコーン企業”を生み出すために、評価額10億円の会社を100社作ることを目指し、独自のファンドも設立し、投資も行ってきた。

「スタートアップがどんどん誕生することで、地域の投資環境もかなり整ってきました。第3期の5年間で目指すのは福岡を代表するスタートアップを生み出すこと。これまではみんなを平等に支援するプッシュ型でしたが、よりポテンシャルの高いスタートアップを積極的に応援するプル型へと変えていく。それと同時に、支援対象をFGN入居企業や卒業企業に限定せず、福岡市に拠点を置くスタートアップへと拡大し、大学発スタートアップへの支援にも力を入れていきます。FGNはコミュニティ化し、スタートアップ同士や支援者とのつながりを作りながら支援していく。これまでこの建物内でやってきたことを、よりオープンにし、福岡市のスタートアップの裾野を広げていく予定です」

FGNを訪ねて感じたのは、スタートアップの育成にも積み重ねが必要だということ。おじいちゃんがFGNを訪ねた家庭では、家族みんながスタートアップを身近に感じるだろう。自分のアイデアを持ってワクワクした気持ちで訪ねた小学生もいずれは、大人になる。

「福岡の人って福岡が大好きなんですよ(笑)。だから東京で働いていたけど、起業するならって地元に戻ってくる人も多いんです」

地元を愛する人たちが集まり、地元経済を元気にする。日本のシアトルを目指し、FGNの挑戦はこれからも続く――。

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