「イノベーションを起こすのではなく、起きる会社に」リコーTRIBUSが挑む“全社で取り組む”アクセラレーション【後編】

2024.11.13
#事業開発ニュース

日本経済の停滞が叫ばれて久しい。そのなかで多くの大企業が局面を変えうる新規事業やスタートアップとの協業、さらにはビジネスコンテストの開催などに取り組んできた。だが、それらが大きな成果をあげたという事例は、決して多くない。そんななか2019年にスタートしたリコーのアクセラレーションプログラムTRIBUSの独自の取り組みが評判を呼んでいる。グループ全体3万人を巻き込むことを目指すTRIBUSの挑戦はどのように行われているのだろうか。

 

リコーの“水先案内人”

2019年からスタートしたリコー株式会社のアクセラレーションプログラム「TRIBUS」。「社内だけで取り組まない」、「社内だけで決めない」、「“いいね”で終わらせない」。そのルールを徹底したことで、多くの成果を上げてきたTRIBUSには、グループ社員3万人を巻き込んでいくための“仕掛け”がある。

「私としては、さまざまなグラデーションでTRIBUSに参加してほしいという思いがありました。新規事業に応募する人、一部の尖った社員だけのプログラムにしたくなかったんです。自分は応募していないけど、応募する人を理解し、応援する人たちを作っていきたいと。そういう人たちのために役割をいろいろ用意することで、TRIBUSを文化として根付かせたいと考えました」(TRIBUS事業創造プロデューサー/TRIBUSスタジオ館長・森久泰二郎さん)

TRIBUSの大きな特長ともいえるのが、新規事業や協業スタートアップの支援、応援をするリコーグループ社員の存在だ。TRIBUSの取り組みに共感する社員は、「カタリスト」「サポーターズ」「コミュニティ」という3つの形でそこに参加することが可能となっている。

「カタリスト(catalyst)は、英語で触媒という意味です。彼らは、プログラムに参加するスタートアップに寄り添うリコーの“水先案内人”の役割を担います。リコーグループにはさまざまな事業があり、いろいろなことをやっています。社員でもそれら全部を理解できないなかで、外部のスタートアップの方を正しく導く存在が必要だと。いわば、リコーとスタートアップの化学反応を加速させる存在。これは20%の工数でやりたい人に手を上げてもらっています」

採択されなかったアイデアを……

カタリストに応募するのは、いずれTRIBUSに応募したいけどいまはアイデアがない人、スタートアップを身近に感じることで刺激を受けたい人などが多いという。

「カタリストをやったことで、よりリコーを理解でき、社内での仕事の幅が広がったという声もありました。ベテラン社員のなかにはセカンドキャリアのためのスキルアップを目指すという人もいるようです」

約300人の「サポーターズ」、約1700人の「コミュニティ」は、よりライトにTRIBUSを応援する社員たち。

「サポーターズは、自らのスキルや人脈で新規事業、スタートアップを応援したいという人たちです。海外で勤務していたので、その国の事情がわかりますとか、学生時代に打ち込んだスポーツや趣味を役立てられそうとか。業務から趣味レベルまでいろいろな角度で支援やアドバイスを行う。そういった活動を通して担当者と意気投合して、チームのメンバーに加わったという事例もあります。コミュニティは、さらにライトにTRIBUSのイベントに参加したり、ヒアリングやトライアルに参加したりしてくれる人たち。新しい取り組みに興味を持っている方々なので、最近はTRIBUSの採択事業に関係ない事業部門の新規事業に協力したりもしています。リコー全体のなかでコミュニティが認識され、協力を求められるようになったのは、すごく嬉しいことです」

「カタリスト」「サポーターズ」「コミュニティ」をあわせると、2000人以上がTRIBUSに関わっていることになる。グループ社員3万人と考えると、かなり大きな数字と思える。

「2019年スタート時の社長で今は会長の山下(良則)さんからは、『まだ1割もいっていないじゃないか』って言われています(笑)。おもしろいのは、TRIBUSに採択されなかったアイデアを自分で事業部に持ち込んで事業化しようとする動きが出てきたこと。コンテストがあるから応募するのではなく、おもしろいアイデアがあれば実現できる会社だと社員が思えるようになったのはすごくいいこと。TRIBUSでは立ち上げのときから『イノベーションを起こすのではなく、起きる会社を目指す』と言ってきました。そういう風土は少しずつ生まれてきたのではないかと思っています」

“お人好し”の社風

アクセラレーションプログラムとしては理想的な道のりをたどっていると思えるTRIBUS。なぜこれほどまで順調なのだろう。森久さんは、その理由を「リコーの社風」だと考えている。

「いい意味でお人好しというか、物事を損得で考えない社員が多いからなのかもしれません。市村清の『儲けるより儲かる』ではないですが、自分の損とか得とかではなく、誰かが困っていたら手伝う、おもしろそうだから参加してみよう、協力してみようという人が多い。だから私たちTRIBUSの事務局としても、あえて自分たちで主導しないことを心がけています。サポーターズやコミュニティが自発的に動くことで、そこに知見や成功体験が生まれる。それがリコーグループ全体のチカラになっていくと思っています」

お人好しのリコーグループ全社員が一致団結して未来を目指す。その姿勢に大企業における新規事業、スタートアップの可能性を感じる。TRIBUSが生み出す自由かつ協力的な空気からしか生まれない、世界を驚かせるような技術やサービスがあるような気がする。

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