出向起業で「のらりくらりとした会社員人生」が一変!“街歩き✕謎解き”が話題の株式会社休日ハック・田中和貴代表取締役社長インタビュー

2024.10.23
#起業家インタビュー

起業なんて考えてもいなかった、平凡な会社員人生。だが、彼はひとつのきっかけで一念発起し、自ら望んで「出向起業」をすることになる。コロナ禍に振り回されるなか、そのなかで学び、掴み取ったビジネスの種。株式会社休日ハックのビジネスは、いま大きな成長を遂げている。

どこにでもいる若手社会人って感じだった

会社のドメイン名は「kyuzituhack.com」。なんとなく違和感のある、ローマ字でいえばヘボン式の綴りは、「起業した際のドタバタのあらわれ」だと、株式会社休日ハックの代表取締役社長・田中和貴さんは語る。 

「入社以来、営業しかやったことがなかったので、起業するとなってもなにも知らなかったんです。定款ってなに? 登記って? みたいな感じで、ドメインもよくわかっていませんでした。本当なら“kyujitsu”ってするべきだったんですけど、そんなことも気づかないくらいで。まあ、会社が大きくなったらいいネタになるかなと思って、そのまま放置しています(笑)」 

個人に新しい休日の過ごし方を企画・提案するto Cの「休日ハック!」と、企業や地域と連携して街歩き体験コンテンツを企画・提案するto Bの「街ハック!」。このふたつの“ハック”の連動で会員数を伸ばし、注目を集める株式会社休日ハック。「街ハック!」では、三井不動産や京王電鉄、東京メトロなどの大手企業とも連携し話題を呼んでいる。2013年にライオン株式会社に入社、営業職についていた田中さんは、ライオンが2019年に始めた全社員を対象に新規事業アイデアを募集する、新価値創造プログラム「NOIL(ノイル)」に応募したことをきっかけにスタートした。 

「私はずっとのらりくらりとした性格なんです。学生時代にスポーツをすごく頑張ったということもなく、必死で受験勉強したようなこともなく、本当にのらりくらりと生きてきた。社会人になってからも出世欲みたいなものはなくて、普通に仕事をして、休日もダラダラ過ごして、スマホをいじっていたら夕方になっていたみたいな。自分が起業するなんて考えたこともない、典型的な若手社会人って感じだったと思います」 

家族と命以外はかける! 

そんな田中さんを変えたのは、ある人から勧められて観た韓国のアイドルオーディション番組だったという。 

「その番組ではふたつのチームが戦って、勝ったほうがデビューできるというシステムでした。私は負けたほう、デビューできなかったチームをなんとなく応援していたんですが、そのメンバーが負けたあと泣いて抱き合っている姿を見たらすごくうらやましくなった。私は、人生でこんなふうになにかをやりきったと思えたことがない。いまからでも後悔しない人生にしたい。だからといって今さらアイドルになれるわけではないし、世界的なスポーツ選手になるのも難しい。じゃあ、いま自分がやっている仕事のフィールドでやりきることはできないか。それなら自分で決裁できる経営や新規事業開発がいいんじゃないかと考えました」 

ビジネスのアイデアは、自らが抱えていた「休日の過ごし方」の問題から生まれた。マンネリした日々に新しい体験を提供する。このアイデアが「NOIL」で採択された。 

「提案時には『家族と命以外はかけるのでやらせてほしい』と言いました。絶対成功させるという気持ちはありましたが、気負いはなかったです。私にとって起業することはあくまでもスタートでしかありませんでした」 

コロナ禍に振り回されピボット 

2020年2月に株式会社休日ハックは、投資ファンドが出資する出向起業の形で誕生。10月にサービスを開始した。日本刀の試し切り体験、パイロット体験、フラワーアレンジメント体験など「休日を半強制的にプランニング」するサービスが好評を呼び、会員は2ヶ月で1万人を突破。しかし会員数の増加は、やがて頭打ちとなる。 

「お客様の評価はとても高かったんです。でもちょうどコロナ禍のタイミングだったことがあり、リピーターが増えず、マネタイズが難しかった。すぐにピボットして家のなかで新しい体験ができる『おうちハック!』というサービスを2021年にはじめました。謎解き、陶芸、染色、料理、ボードゲームなどの100種類以上の体験キットを送付するサービス。LINEの登録者数は40000人を突破するなど順調に成長していきました。もともとうまくいかなかったらピボットするつもりで、いろいろなアイデアは考えていました。もしこれが社内の新規事業でやっていたとしたら『休日ハック!』がうまくいかなかった時点でクローズになっていたと思います。でも私の場合、出向起業だったのでまだキャッシュが残っていた。このキャッシュのなかで次にできることはなにかと考えて『おうちハック!』が生まれました」 

しかしコロナによる規制が解除されていくと、「おうちハック!」の需要が急速に低下。このタイミングで“次の一手”として生まれたのが企業や法人と連携するtoBビジネス「街ハック!」だった。 

「もともと投資家から『失敗してもただでは転ぶな』と言われていました。なにかしら筋肉をつけて、次の事業チャンスを狙えと。『街ハック!』のアイデアも『休日ハック!』や『おうちハック!』での学びから出てきたものです。“休日”と“おうち”ではいろいろな体験を提供していたんですが、そのなかで満足度が高かったのが、脱出ゲームや謎解きゲーム。なにかしらの攻略要素があって、達成感が味わえるコンテンツです。だからまずそれらを軸に事業開発をしていこうと考えました。それともうひとつ、『休日ハック!』ではいろいろな体験を提供するときに、サービスの場所に行く駅の周辺や道すがらのおすすめスポットを紹介していて好評でした。普段行かない場所を巡るってそれだけで楽しいじゃないですか。最初に提案したのは、新規事業開発関連でつながりがあった不動産会社様。謎解きをしながら日本橋で街歩きをするコンテンツを一緒に作って、それが好評だったことで事業が拡大していきました」 

ひとつ課題をクリアしたら次、また次

京王電鉄ではさまざまな駅をクローズアップした街歩きのための小説、東京メトロでは漫画と謎解き、街歩きを組み合わせたコンテンツを発表、それぞれ大きな話題に。連携する企業や施設、自治体も急増。そしてこの「街ハック!」の成長にあわせるように「休日ハック!」の登録者も増えていった。 

「今年は国内ですけど、来年以降はインバウンド向けの展開を予定しています。私たちは“ミッションツーリズム”という言葉を使っているんですが、謎解きや宝探しと街歩きの組み合わせは、外国の方にもかなり反応がいいんです。まずはインバウンド向け、そしていずれはグローバルな展開も考えています。国内で黒字化を目指すということもできるんですけど、ライオンのリソースを使えば、グローバルにもっと大きなビジネスに育てることができるはず。そうなれば、ライオンのビジネスとのシナジーも大きくなると考えています」 

のらりくらりとした会社員人生を途中下車して、やりきったといえる充実感を目指してここまでやってきた。紆余曲折を乗り越え、田中さんは充実感を得たのだろうか? 

「うーん、まだ成し遂げたってほどではないですね。それが起業の魅力なのかもしれませんが、ひとつ課題をクリアしたら次、また次と考えてしまう。これだけの成果が出たということは、次はもっとできるんじゃないか、グローバルでもいけるんじゃないかと。目標があるとしたら、ライオンの1ブランドと同じくらいかそれ以上の売上。かなり大きな目標ですが、そこを目指してやっていきます」 

このまま休日ハックに残り続けるのか、ライオンに戻るのかということも考えたことがないという。自らの掴み取った出向起業の道。田中さんは「後悔のない人生」のためにこれからも走り続ける。 

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