【入山章栄教授の「最新スタートアップ講座」特別編】まさに“目からウロコ”! 池上✕入山対談「宗教を学べば経営がわかる」は、ビジネスパーソン必読の一冊

いつもわかりやすくスタートアップの最新事情を解説していただいている早稲田大学大学院文学経営管理研究科教授であり、長年日本のスタートアップについての研究を続けてきた経営学者の入山章栄さんが“知のモンスター”池上彰さんとの対談本を上梓。その名も「宗教を学べば経営がわかる」(文春新書)。これほどまでに宗教と経営に関連性があったとは! 日本、アメリカ、イスラム……現代、過去、未来。縦横無尽に交わされるふたりのトークは、読めば読むほどのめり込むこと必至。今回は、「入山章栄教授の『最新スタートアップ講座』特別編」として本書から気になるふたりのトークをいくつか紹介しよう。
日本企業に最も必要なのに、最も欠けているもの
池上彰さんとの対談本『宗教を学べば経営がわかる』(文春新書)の冒頭「本書を手に取った方へ」で入山先生はこう言いきっている。
「宗教をよく理解することは、現代のビジネスや経営を考える上でとてつもない学びとなる」
最後までこの対談集を読み終えたとき、その言葉が大げさでないことが理解できた。宗教と経営、宗教とイノベーション、カトリック、プロテスタント、イスラム教、ユダヤ教と経済、経営の関わり……。入山先生が経済や経営について語れば、池上彰さんがその裏にある宗教の理念や行動原理について語る。そのクロストークを読んでいると、まるで“世界の仕組み”を理解できたような気がしてくる。理念的な話だけではない。トヨタ、ホンダ、SONY、テスラなど、具体的な企業や経営者の名前をあげて解説している部分も多く、グイグイと引き込まれていく。ここでは、その一部、興味深いふたりのやり取りを抜粋して紹介しよう。
入山 センスメイキング理論では、正確性よりも、他人に信じ込ませることが重要だというお話をさきほどしました。イーロン・マスクはその典型だと思うんです。彼の言っていることは結構ムチャクチャなわけですよ。「人類を救うために火星に行こう」とか。でもそれが、今風の言葉で言うと「共感性」を高めるからこそ、人が集まってくるんじゃないか。
池上 夢があるってことですか?
入山 [中略]こうやって夢を語ってまわりに腹落ちをさせる経営者は日本の特に伝統的な大手企業にはまだまだ少ない気がします。[中略]
池上 もしイーロン・マスクみたいな人が日本にいて、「電気自動車をつくるんだ。そのあと火星に行くんだ」って言っていたら、「こいつバカじゃないの?」って話になって、潰されたような気がしますね。そういった日本の風土の問題もありそうです。[第1章「トヨタはカトリック、ホンダはプロテスタント]より抜粋]
“腹落ち”は、本書のキーワードのひとつ。入山先生は言う。「人はセンスメイキング(腹落ち)するからこそ行動するし、それが人を動かす原動力になる」。そしてそれが「現在の日本の大手・中小企業に最も必要なのに、最も欠けているもの」だと。
入山 [前略]変化が激しくて先の見えない時代には、厳密な正確性よりも、「きっとこれが正しい」と信じ込ませて人を引っ張っていくことが重要になると思うんです。[中略]
池上 組織の人間に腹落ちをさせて一つの方向に引っ張っていくと聞くと、さっそく宗教の話をしたくなりますね。[第1章「トヨタはカトリック、ホンダはプロテスタント]より抜粋]
アメリカのCEOがもらっている給料は高すぎる?
ふたりの宗教✕経営トークは、グローバルな視点にも及ぶ。いま世界中でイスラム教徒が増えているというが、池上さんによるイスラム教のビジネスの考え方についての解説が興味深い。
池上 (イスラム教では)基本的に商売は自由にやっていい。だから、資本主義が入ってくることに対して、本来、抵抗はないはずなんです。
入山 汗水を流して働くのであれば全然かまわないってことですよね。要するに、「楽して稼いだらダメだよ」と。
池上 高利貸しのようなことはしてはいけない。[中略]不労所得を戒めているわけです。
入山 けっこうSDGsとか「新しい資本主義」に通じるというか、逆に現代的な感覚にも思えますね。[中略]実際、若い世代には、イスラム的な考え方を「好きだ」と言う人もいるみたいです。
池上 イスラムの世界には、みんなで助け合う発想がある。『コーラン』は「喜捨」を進めています。「困っている人には恵んであげなさい。喜んで捨てなさい」と。これが格差を是正しようとする動きにもつながります。[第5章「なぜイスラム教は『ティール組織が作れるのか』より抜粋]
第6章「アメリカ経済の強さも矛盾も、その理解には宗教が不可欠」では、アメリカにおける“成功”の宗教的な捉え方を解説。
池上 (アメリカでは)一生懸命に働いて成功を収めた場合に、「神に祝福されたから成功したんだ。神に選ばれたんだ」と考える。厳密には、現世で成功したからといって、実際のところ神に救済されるかどうかはわからないんですけれども、彼らはそのように理解します。
入山 経営学の世界には、「アメリカ企業のCEOがもらっている給料は高すぎるんじゃないの?」っていうことを研究したり議論したりする人たちもいます。何十億円とか、ヘタをすると何百奥円とか年俸をもらっている。でもアメリカ国内では不思議なくらい批判や妬みが聞こえてきません。[中略]
池上 日本だったら、「あいつだけ金持ちになった。ずるい! 許せない!」ってことにもなりそうですよね。ところがアメリカだと、「おめでとう! 自分も努力して成功したいね」ってなるんでしょう。[第6章「アメリカ経済の強さも矛盾も、その理解には宗教が不可欠」より抜粋]
宗教の教義や最新の経営理論についてディープに語ったと思えば、ときに軽やかなトークも交わす。「宗教と経営について勉強するぞ!」と肩ひじはることなく読めるのも本書の特長と言えるだろう。秋の夜長、読書の季節。まずはこの一冊で、宗教と経営の“いま”を知ってみるのはどうだろうか。
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