【FTS INTREPRENEURS AWARD 2024 受賞者インタビューvol.02】「ダサくなければ自信が持てる!」(株式会社coordimate CEO飯野健太郎さん)

2024.10.10
#イントレプレナーインタビュー

企業に所属しその企業のアセットを使いながら、イノベーティブな取り組みを行うイントレプレナー。尖ったアイデアが排除されがちな企業のなかで、独自の新規事業を立ち上げ、チームを率い、成功を目指す。FTSでは、そんな挑戦する若手イントレプレナーを表彰する「FTS INTREPRENEURS AWARD」を創設。2024年の受賞者は3名。第2回は、NTTドコモからスピンアウトを果たしたイントレプレナー。自らの「選ぶ服に自信がない」というインサイトを深堀り、“安心と応援”というこれまでにないコンセプトのファッションアプリ「coordimate」を立ち上げた株式会社coordimateの飯野健太郎CEOにインタビュー。

コーディネートを“練習”できる場所

多くのファッションビジネスは、「理想」や「憧れ」をベースに作られてきた。美しいモデルが最新の衣服をまとい、「こんなふうになりたい」「この服を着れば自分も同じようになれるのではないか」と消費者に思わせる。安価を売りにするファストファッションブランドが有名デザイナーなどとコラボレートするのも、その「憧れ」を喚起するためといっていいだろう。

だがファッションアプリ「coordimate」は、まったく異なる視点から生まれ、多くのユーザーの支持を得ている。このアプリは、自身の全身写真を投稿するだけで、ファッション好きの一般男女”mate”から“アリ・ナシ”のリアクションやアドバイスといったフィードバックを最短30秒でもらえるファッション相談サービス。2022年7月にローンチしたこのアプリを立ち上げたのは、株式会社coordimateの飯野健太郎代表取締役CEOだ。

「coordimateの基本にあるのは“安心と応援”です。僕たちの調査だと、日本の18歳から59歳のうち、約70%にあたる4400万人が服選びに困っている。つまり日々なにを着ていいかわからないし、服や靴をどうコーディネートすればいいかわからない。このアプリのユーザーのなかには試着室のなかから相談してくる方もいます。その場で店員に相談すればいいと思うじゃないですか。でも彼らは自信がないから目の前の人にきけない。『ダサいと思われるんじゃないか』って不安なんです。僕自身がそうなので、その気持ちがよくわかる。若いころからセンスがない、ダサいって言われてきたので、自分の服選びに自信がない(笑)。ファッション誌を参考にできるような人たちは、僕らから見れば“ファッション上級者”。そうではなく、日々悩み不安を感じている方に安心してもらう、『それでいいよ』って応援する。僕はずっとサッカーをやっていたんですが、スポーツのように練習できる場があるといいなと。そう思ってボリュームゾーンにあたる70%の不安な人たちのためのアプリを作ろうと思ったんです」

coordimateをのぞくと、飯野さんのいう“安心と応援”がよく理解できる。そこに写真を公開しいているのは、ファッション誌に登場するような自信にあふれるモデルたちではない。オフィスや電車などで見かけるごく普通の人たちが、ごく普通の服に身を包み、「これで大丈夫でしょうか?」と不安を投げかけ、そこに”mate”が「シャツの色がすてきです」「バッグがいいアクセントになっています」と応援を送る。ときに「ソックスの色はパンツと同系色がいいかもしれません」「ジャケットはワンサイズ下のほうがよりカッコよくなるかも」といったアドバイスもあるが、もとのコーディネートを否定するような厳しいものではない。

「僕も含めたファッション感度の低い人間にとって、とりあえず否定されないってことが大事。ここなら安心して失敗できると思ってもらえる場所を作っていければと思っています」

何度もピボットを繰り返す

2024年4月ドコモの新規事業共創プログラム「docomo STARTUP」における「STARTUPコース」適用第一号案件軍としてスピンアウトした株式会社coordimate。2011年にNTTドコモに入社、法人営業やM&Aなどを担当していた飯野さんが新規事業の立ち上げに興味を持ったのは、入社8年目のころだったという。

「当時ドコモの出資先の経営管理を担当していたんですが、出資先の経営者の方々が泥臭く頑張っている姿を目の当たりにして、すごくカッコいいなと思ったんです。僕も彼らみたいに必死になってキラキラした人生を送ってみたいと。そこからいろいろなアイデアを考えて、誰かに相談したり、社内ベンチャー制度や新規事業コンテストに挑戦したりということを繰り返しました。coordimateにたどり着くまでに、4年間で何度もピボットしています。最初はブロックチェーンを使って草サッカー選手のなかからプロ選手を生み出すための仕組みを考えたんですが、全然うまくいかず。次に考えたのは、当時盛り上がっていた情報銀行でした。これも結局うまくいかなかったんですが、ここでファッションに関する情報は価値があるということを学びました。そこでファッションブランドと連携してブランドストーリーを発信するポップアップショップを作ってみてはどうかと考えたんですが、固定費がかかりすぎて無理だと。でもこのポップアップのアイデアのときにユーザーインタビューをたくさんしていて、そのときにスタイリストの方とも知り合った。この人たちが一般の人たちにファッションのアドバイスをするようなサービスはどうだろうと考えたのがcoordimateの原型になりました」

当初は「デートに着ていく服」のアドバイスを行うサービスを想定していたという。

「男性が仮想のデート相手に服装の可否を聞けるというサービスを検証したところ、かなり反響がよくて商用化できるいう手応えを得ました。でも僕らが服に困っているのってデートだけだっけ、毎日オフィスに行くときも困っていないかって話になって、現在のcoordimateの形になっていきました。結局、僕自身がインサイトにたどり着いたのが大きかったですね。ダサいと思われたくない=減点されたくない。おしゃれだと思われなくても減点されないようにしようというのが僕の思いであり、coordimateの原点です」

サッカーチームのオーナーになりたい!

ファッション感度の低いボリュームゾーンをターゲットにしたcoordimateは、2万件以上のダウンロードを達成。“安心と応援”を求める人たちが続々と集まっている。

「現在は無料サービスですが、もっと高度なサービスを有料にすることも考えています。ファッション関係はもちろん、それ以外の事業者との連携の話もいろいろ進んでいます。僕はcoordimateはひとつのインフラになると思っているんです。僕自身、『自分がダサいんじゃないか』という不安から解放されて、自信が持てるようになった。女性用のファッション誌などでは、おしゃれをすれば元気が出るというようなことをよく言っていますが、その手前。ダサくなければ自信がもてる、元気が出る(笑)。70%の裾野から元気にしていけば、世の中が元気になる。これはインフラです。ドコモ出身である私がやるべき仕事だと思っています」

イントレプレナーとして着実な成果を出しつつある飯野さん。いまの自分があるのは、数々の失敗があったからだと語る。

「僕の場合、ありがたいことにまわりの方々が温かく応援してくれたことで4年間挑戦し続けることができました。僕と同じような立場で新規事業に取り組んでいる方は、『自分が挑戦することで会社や担当に迷惑をかけるかも』と思うことがあるかもしれません。でもそんなことを少しでも思っているとうまくいかない。行動や失敗を通じて初めて『自分は何をしたいのか、どんなことが楽しいのか』にたどり着ける。課題を深堀っていき、困っている方との共感が強くなればなるほどのめり込み、熱量も上がっていくと思います。私のようにピボットを繰り返してもいい。企業側は、失敗しても継続して手を挙げ続けられる制度を整える。周囲の応援がイントレプレナー活性化に繋がり、その新規事業が日の目を浴びなかったとしても、その行動は絶対本業にもプラスに働くはず。だから会社側も失敗を恐れず、『どんどん会社を使い倒してくれ』とメッセージを出してくれれば、もっとたくさんの人が挑戦できる社会になっていくのではないでしょうか」

小学生から大学生までサッカーにのめり込んでいたという飯野さんには、大きな夢がある。

「coordimateが大きく成長したら、サッカーチームのオーナーになりたいです! 楽天とかサイバーエージェントみたいにチームを買収してオーナーになって。まずはチームスポンサーでもいい。それが僕の目標です」

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