【FTS INTREPRENEURS AWARD 2024 受賞者インタビューvol.01】「日本の製造業をもっと元気にしたい」(株式会社KAMAMESHI CEO 小林俊さん)

企業に所属しその企業のアセットを使いながら、イノベーティブな取り組みを行うイントレプレナー。尖ったアイデアが排除されがちな企業のなかで、独自の新規事業を立ち上げ、チームを率い、成功を目指す。FTSでは、そんな挑戦する若手イントレプレナーを表彰する「FTS INTREPRENEURS AWARD」を創設。2024年の受賞者は3名。まずは日本の製造業の活性化、持続化のため日本製鉄から出向起業した「株式会社KAMAMESHI」の小林俊CEOのインタビュー。
持続可能な製造業を目指して
国の成長と共に需要の旺盛な国や地域に工場が移っていくのは、製造業の宿命だ。かつて世界の製造業の中心だった日本もその波には抗うことができずにいる。多くの製造業者が需要の低下、従業員の確保、設備の老朽化などに悩むいま、その現状をなんとかしたいと立ち上がったのが「株式会社KAMAMESHI」CEO小林俊さんだ。
「元々、ベンチャーがやりたくてKAMAMESHIを始めたわけではないんです。日本の製造業の変革し、持続可能な業界に変えていきたいという思い。また、この仕組みをちゃんと構築できれば、日本の製造業を元気にできるんじゃないかという思いでこの会社を立ち上げました」
社名には「釜飯と誤解されがちですが(笑)」、製造業全体を「同じ釜の飯を食う仲間にしていきたい」という思いが込められている。日本製鉄に入社後、生産管理や営業を担当。生産管理時代では、設備が故障した際の影響の大きさやリカバリーの大変さを感じ、営業担当のときには、製造業全体に広がる設備老朽化の課題を目の当たりにしていた。
「製造業では、製造設備を長期にわたって使用するため、構成部品の生産が先に終了し、メンテナンス時や故障時に交換が必要な部品が手に入らない状況が起こっているんです。さらにこれまで現場を支えてきた高い設備保全技術を持つベテラン社員や、中小企業を支えてきた設備メンテナンス業者・商社の数も年々減ってきている。『KAMAMESHI』では、会員となる製造業の会社に3つの設備保全に向けたサービスを用意しました。①会員企業間で売買ができるECサイト、②設備予備品の社内在庫管理システム、③設備技術人材による保全コンサル。今後はKAMAMESHI会員企業によるコミュニティ形成も進め、共に未来を創りイノベーションを起こす仲間になれるのが僕の理想です」
リスクを負ってチャレンジした理由
起業までの道のりは、平坦ではなかった。プライベートの時間を削り、起業前から2年半をかけて、300名以上の方々に、実際に現場での困り事をヒアリング。賛同する仲間たちとともに少しずつ課題の解像度を上げていった。そしていざ起業。小林さんは日本製鉄に籍を残しながら起業する“出向起業”という形でKAMAMESHIを立ち上げることを選択した。
「もちろん、KAMAMESHI側としては、日本製鉄の信頼やネットワークを活用できることは、非常に魅力的でした、一方で、日本製鉄にとっても意義があるとの想いで出向起業というカタチを提案しました。最初はまわりの社員も出向起業そのものを知らなかったので、その点では苦労しました。当時はタイに赴任していたのですが、会社を作る作業をやりながら、日本製鉄と出向契約を取り交わし、本業をやりながら、本業の引き継ぎもやり、家族もいっしょにタイに行っていたので家族のケアも必要でした。さらに出向企業の申請も経済産業省に出さないといけない。そんな日々が半年間続きました。だからもう後半のほうはあまり記憶がないです(笑)」
出向起業とはいえ、小林さん自身も大きなリスクを背負っている。
「自己資金300万円に、銀行からの融資が2000万円。この2000万円は会社への融資ですが、自分が連帯保証となっています。やっぱり最初のフェーズは、自分たちで事業の勝ち筋をしっかりと作りたいという思いがあったので、こういう選択になりました。もちろんVCなど出資してもらう方法もあったと思いますが、事業のスタート地点では、顧客に向き合い、サービスを最適化することが最重要課題であり、そこに集中したいと考えました。事業を軌道修正するときも自己資金のほうがやりやすい。家族はやっぱり不安だったと思いますが、そこは日本製鉄の社員を辞める訳ではないということで、理解をしてもらいました」
小林さんが決して自分自身の成功を目指しているわけではないということは、KAMAMESHIが実施しているサービスの価格設定を見ればすぐに理解できる。会費は月額3万円(1事業所ごとにプラス1万円)という法人向けとは思えない低価格。なぜこんな無謀とも思えるほどの低価格に設定したのだろうか?
「このサービスを届けたいのが中小企業。彼らはいま少しでも無駄な出費は避けたい。だからそういう方々でもメリットを感じたら会員になれるという価格設定にしました。それでも会員になってもらうのは大変です。汗かいて歩きまわって、自分の口で説明していかないと会員が増えないだろうというのは最初から分かっていました。ある朝、突然バーっと会員数が増えているなんてことは絶対に起こらない(笑)。製造業ってそういう業界なんです。ちゃんと畑を耕かさないと実はならない。そこは予定通りですけど、やっぱりかなり苦労はしていますし、時間も出費もかかります」
喜びも悔しさも会社員時代の数倍
現在は全国の製造業が集まる町を飛び回り、会員集めを行っている。
「日々大変なことも多いですし、課題に直面することばかり。会社員時代のほうが間違いなく楽だったと思います。でもそういったプロセスすらも、目指しているビジョンの実現に、一歩ずつ近づいていると思えば、やりがいもあるし、それを超えることが楽しい。もちろん会社員として働いてた時も精一杯頑張っていましたが、それでもやっぱり今このKAMAMESHIの経営者としての日々、そこから沸き起こる感情っていうのは、喜びも悔しさも、すべてが何倍にも感じます。正解が無い中で、毎日悩みながら、自分なりの決断の繰り返しますので、少しは人間としても成長できているんじゃないかなと思っています」
経営者として充実した日々を送っているという小林さん。KAMAMESHIの会員数も順調に伸びていて、ここから社員を増やし、サービスの拡大を目指しているという。出向起業の期限は3年間。そこから先の小林さんのビジョンはどうなっているのだろうか。
「KAMAMESHIの事業としては、まずは4年目で会員企業1000社。更に、6年目での上場をチームの目標にしています。既にタイ・インドネシア・ベトナムなど日系の海外事業会社でも利用して頂き始めているので、徐々に海外展開も広げていきたい。日本製鉄の社員としての4年目以降は、まだ何も決まっていません。僕個人としては、単純に日本製鉄という会社は大好きで、恩義も感じている。こうやって懐深くチャレンジさせてもらっていること自体がすごくありがたいと思ってるので、何かしらのメリットを日本製鉄に返したい。このKAMAMESHIの事業が製造業全体に広がっていけば、日本の製造業に新たな勝ち筋を作り、グローバルに日本のものづくりの良さを知ってもらえるようになるはず。それが日本製鉄への最大の恩返しになることは確信している。」
世界へのサービス拡大も視野に入れている。
「これから先に世界中にあふれる製品アイデアやニーズの多様化に応えていくため、日本のものづくりの仲間達が協力し合うことができれば、日本の製造業には活気がよみがえるはず。そのために業界や地域を越えたフラットな企業間の繋がりと持続可能な仕組みの構築がKAMAMESHIの使命だと思っています」
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