ハードテックの“スーパースター”を生み出す! アクセラレーションプログラム「HAX Tokyo」の挑戦

2024.09.13
#事業開発ニュース

ハードテック系のスタートアップは、金も時間がかかり、かなり困難な道を歩むことになる。そんなスタートアップに「生まれたて」の段階から寄り添い、支援するのが住友商事のアクセラレーションプログラム「HAX Tokyo」だ。世界に通用するスーパースターを育てたいという「HAX Tokyo」が目指す場所とは――。

スターを目指すという空気感

よく知られた話だが、大谷翔平は高校生のころからメジャーリーグで活躍する自分をイメージしていた。誤解を恐れずにいえば、彼は高校野球や日本のプロ野球を大きな夢の通過点として考え、そのためにいまなにをすべきか、どんな肉体を作り、どんな技術を身につけるかを考え、そのために誰よりも努力をした。その結果として誕生したのが世界のスーパースター、大谷翔平だ。住友商事がグループ会社のSCSK、SOSVとともに2019年から運営するスタートアップのアクセラレーションプログラム「HAX Tokyo」が目指すのは、大谷のように「世界で活躍するスタートアップ」を生み出すことだという。

「アメリカや中国のスタートアップのエコシステムを訪ねたことがあるんです。数々の有名スタートアップが誕生した場所だと聞いていたので、特別な機材があったりするのかと思って楽しみにしていたんですが、施設自体はどうってことない、日本にもあるようなものでした。まったく違ったのはその空気感。そこにいるだれもが成功するため、スターになるためにここに来たんだという空気をまとっているんです。日本では感じたことがない雰囲気でした。目に見える施設とか設備は真似できるんですが、同じような空気感を作るのはむちゃくちゃ難しい。でもなんとか日本にもそれを作っていきたいなと考えています」(住友商事 デジタル戦略推進部 新事業投資部 廣畑純平さん)

なぜハードテック支援?

HAX Tokyoは、ハードウェア製品の開発に取り組むスタートアップを支援するプログラム。ハードテックといえば、「金がかかり、時間がかかり、リターンが読めない」分野だ。なぜ彼らはそんな難易度の高い分野を専門的に支援しようと考えたのだろうか。

「おっしゃるように、ハードテックでのスタートアップはかなり困難といえます。でもだからこそ、誰かが応援していかなければ発展しない。本当に大きな社会課題を解決していこうと考えたとき、そのツールとしてのハードウェアは絶対に必要。住友商事としては、HAX Tokyoは単なるビジネスのためのチームではなく、企業として社会に貢献する、社会に対する責任を果たすという思いで運営しています。住友商事としてのリターンは、長い目で見ています。日本からGAFAのような企業が誕生すれば、必然的に住友商事のビジネスも大きくなるはずですから」(廣畑さん)

HAX Tokyoが行うのは、「創業初期のスタートアップに寄り添い、成功までの道すじを作ること」。

「住友商事のスタートアップへの支援や投資は、1998年に始まりました。その長い歴史のなかで学んだのは、スタートアップに投資して、事業現場と繋いだら、それでなにかが生まれるわけではないということ。もちろん成功事例もあるんですが、世界を変える、驚かせるような結果にはなかなかつながってこなかった。それならば、本当に生まれたてのスタートアップと膝を突き合わせて、長い時間を共有しながら、一緒に歩いてみようというのが、HAX Tokyoの取り組みなんです。金もない、仲間もいない、たった1人のスタートアップに寄り添い、資金調達を手伝い、一緒に事業をやっていく仲間を見つける過程をともにすることで、より大きな成功に導くことができるんじゃないかと。もちろん時間はかかるんですけど、新しいものを作り上げていくには実は最短ルートなのではないかと、最近は感じるようになりました」(廣畑さん)

スタートアップと事業会社のギャップ

現在は年間10社ほどの支援を行っている。採択の基準は「グローバルで戦っていけるかどうか」。

「わたしたちがターゲットにしているのは、グローバルで新しい産業を作っていくんだというビジョンを描き、その可能性を持っているスタートアップ。ビジョンと技術はあります、でも他にはなにもありませんという方は大歓迎です。私たちにはアメリカのSOSVというパートナーがいるので、彼らのグローバルなネットワーク、視点、知見というものも大きな支えになっています」(廣畑さん)

ハードテックが難しいのは、「理論上は可能」なことと「事業として成立」することにギャップがあることだ。研究所の成果が必ずしも事業としての再現性があるとは限らない。そこに至るまでに多くの実証実験や実現のための施設への投資が必要となるため、投資する側が二の足を踏むことになる。住友商事 デジタル戦略推進部 HAX Tokyo & MIRAI LAB PALETTEチームの細内梨央さんは、これまで数々の「生まれたてのスタートアップ」と向き合ってきた。

「スタートアップとその技術を採用しようという事業会社では、考えていることがまったく違っていたりするんです。スタートアップは『この技術がすごい、新しい』ということをアピールするのですが、事業会社側から見ると安全性や再現性のことを考えると、採用することができない。双方の視点がちがうから、なかなか噛み合うことがないんです。だから私たちHAX Tokyoは、その間に入る通訳、ガイドのような役割を果たしていければいいのかなと思っています。」(細内さん)

成長の過程を伴走する

ハードテック系の起業家と向き合うなかで感じることがあるという。

「とにかく熱量の高い方が多いんです。多くの方が絶対にこの技術は世界が必要としていると信じて取り組んでいる。なかには定年退職されてから、使命感で起業される方もいて、そういう方々に会うと、自分もがんばって応援しなければと刺激をもらいます」(細内さん)

これまで自動搬送ロボットサービスを開発するLexxPluss、新たなマイクロモビリティを開発するStriemoなど、さまざまな技術を持つスタートアップが、プログラムに参加。世界に向けて羽ばたこうとしている。

「LexxPlussさんの場合、すでにアメリカでも販売をスタートしています。創業後半年くらいのタイミングで相談を受けて、物流系の技術ということで住友商事のなかの物流インフラ部隊の助けを借りて、いくつかの物流の現場を一緒に訪問し、ニーズを聞かせてもらった。成長の過程を伴走できたのは私たちにとっても大きな経験になりました」(廣畑さん)

世界的スーパースターを生み出し、そのスーパースターを追いかけるフォロワーを作る。それができれば、日本のスタートアップシーンを大きく変わるだろう。HAX Tokyoの取り組みには期待しかない。

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