入山章栄教授の「最新スタートアップ講座」vol.06 「スタートアップするならやっぱり東京? それとも地方?」

日本の起爆剤になるようなスタートアップの登場を誰もが待ち焦がれている。そんな人間が、企業が本当に現れるのか? 日本、世界のスタートアップ界隈ではいったい何が起きているのか? 早稲田大学大学院文学経営管理研究科教授であり、長年日本のスタートアップについての研究を続けてきた経営学者の入山章栄さんにスタートアップの最新事情を語ってもらった。
東京には“落とし穴”がある
いま全国各地で自治体主催のビジネスコンテストが盛んに行われている。あらゆる情報がオンラインでリアルタイムに共有できる時代。スタートアップが成功するために選ぶべき場所は?
「スタートアップに求められるのは金と仲間。そう考えると、東京が圧倒的に有利なのは間違いありません。アメリカもあれだけ大きな国なのに、スタートアップが集まるのは結局、シリコンバレーとボストン。そこに行けば、仲間を見つけられるし、金も集まっている。日本でいえば、やっぱり東京、もっといえば渋谷や六本木がそういう場所なのです。オンラインでコミュニケーションできる、情報も集められると思うかもしれませんが、ビジネスに関する本当に重要な情報はオンラインでは喋らない。重要な話はフェイス・トゥ・フェイスで密かにやるというのは、いまも昔も変わらないんです」
人材も金も情報も集まる東京。でもそこには落とし穴もあると入山先生は語る。
「東京は楽しすぎる、誘惑が多すぎる(笑)。頑張ろうと思ってたはずが、多くの人が遊んじゃうんですよ。渋谷あたりだとスタートアップで成功した人が派手に遊んだりしているから、まだ成功していない人も一緒になって遊んでしまう。これ、冗談みたいに聞こえるかもしれませんが、本当にそうやって脱落してしまう人が多いんです。その点、地方はつまらないかもしれないけど、誘惑は少ない。僕はそういう意味で、最近地方でのスタートアップもいいんじゃないかと思っているんです」
それぞれの地域性を見きわめる
東京のより不便で退屈かもしれない。だが、それこそが地方でスタートアップする最大のメリットだ。
「不便ということは、そこに解決すべき課題があるということ。東京で当たり前に受けられるサービスがない。じゃあ、どうすればいいかと考えるべきテーマが目の前に転がっているわけです。これはビジネスにとって本当に有利だと思います。しかも夜出かけようにも早くに店が閉まっちゃう。東京だと遊んでしまう時間に仕事に没頭できる(笑)。先日、山口県に行ったんですけど、幕末から明治維新で大きな役割を果たした吉田松陰の松下村塾なんて、本当に辺鄙な場所にあるんです。遊ぶ場所がないから、みんなで夜通し議論して、国家のあり様を考えたんじゃないかな。これからの日本をひっくり返すような人材も、そういう場所から生まれてくるのかもしれません」
家賃などランニングコストの低さも地方の魅力。ただし地方ならどこでもいいというわけではない。スタートアップにも地域性やその土地ならではの傾向があるという。
「たとえば京都には任天堂があります。そうするとやっぱりゲーム、コミック、アニメあたりのスタートアップが強い。北海道だと宇宙産業が盛りあがっている。大樹町に『北海道スペースポート』ができてインターステラテクノロジズも入っている。だから、最近十勝や帯広のスナックが若い人で賑わっているらしいです(笑)。沖縄も面白いですね。沖縄のスタートアップは、東京ではなくアジアを見ている。沖縄からならアジアの方が身近な課題が見えるのかもしれない。要するに、ただやみくもに地方に行けばいいというわけではないんです。自分がどんなスタートアップをやりたいのか、どう育てたいのか、それにあった場所を選ぶべきだと思います」
鍵を握るのは地銀
現在、スタートアップ誘致は全国各地で行われている。地域性以外にチェックすべきポイントは?
「実は自治体と同じかそれ以上に鍵を握っているのは地銀。自治体から出る補助金には大差がありません。地方でのスタートアップが資金調達するときに重要な鍵を握っているのは、地銀なんです。自治体がいくら笛を吹いても、地銀が金を出さなければスタートアップは育たない。興味のある自治体があったら、その土地の地銀がスタートアップに対してどんな取り組みをしているかを一緒にチェックする。地方によっては東京以上に資金調達しやすいということもありますよ」
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