入山章栄教授の「最新スタートアップ講座」vol.01 「成功する起業家の絶対条件」

2024.05.21
#スタートアップニュース

日本の起爆剤になるようなスタートアップの登場を誰もが待ち焦がれている。そんな人間が、企業が本当に現れるのか? 日本、世界のスタートアップ界隈ではいったい何が起きているのか? 早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授であり、長年日本のスタートアップについての研究を続けてきた経営学者の入山章栄さんにスタートアップの最新事情を語ってもらった。

メジャーVS.甲子園

スタートアップの現状を野球にたとえるとすると「アメリカがメジャーリーグで、日本は甲子園の高校野球」だと入山教授。悲観的? と思いきや「むしろ逆」だという。

「ようやくここまで差が小さくなった!とポジティブに考えているんです。だって甲子園までたどり着けば、大谷翔平のような選手が現れる可能性があるわけですから」

日本から飛び立ち、誰もが認める世界一のベースボールプレイヤーになった大谷翔平。今後日本から彼のような“ユニコーン起業家”が現れる可能性はあるのだろうか?

「私はあると思っています。以前、起業家というと楽天の三木谷浩史さんや堀江貴文さんを思い浮かべたでしょう。1990年代後半から2000年代に起業した彼らの時代のスタートアップは、一攫千金の“自己実現型”という印象がありました。でも最近起業を目指す人は、単に利益を目指すのではなく社会のなかで役に立ちたいという“社会貢献型”も多い。自己実現型は稼げる分野を次々と探していくので、いろいろな事業を展開することもある。他方、社会貢献型はひとつのことを極めるタイプが多いので、腰を据えてひとつの事業に打ち込みます。僕は後者のほうがよりクレイジーなことができるし、周囲のサポートも得やすいと思っています。こういうタイプのなかから、世界で通用するユニコーンがいつか登場すると期待しています」

失敗を恐れないマインドセット

いい学校にはいって、いい企業につとめれば、いい人生を送れる。確かに右肩上がりの日本ではそんな“幻想”に支配されていた。だが、インターネットの登場によって一気にグローバル化した社会においては、それが通用しなくなってきた。

「日本人はどうしても失敗を恐れますよね。失敗した人間は敗者であり、もう一生這い上がれないみたいな空気があった。でもアメリカのすごいところは、会社を3つ4つ潰しても平気なところ。お前、3つ会社を潰したのか、やるじゃんみたいな(笑)。そういうチャレンジを続ける人間をむしろ評価する社会で、チャンスが次々とやってくる。日本でも少しずつそういう風潮は生まれてきていますよね。大企業から独立したけどうまくいかず、でもまたもとの大企業に戻れるとか。そういう個人レベルの意識の変革と、企業や社会の意識の変革がいま同時に進行していて、少しずつスタートアップに適した“土壌”が生まれているような気がします」

最近、入山教授のまわりには「リスクを恐れない」若者が増えてきているという。

「大切なのは、いまチャレンジしている若い経営者たちが成功し、その姿を次の世代に見せていくこと。そうすることでスタートアップに飛び込む人たちがどんどん増えていく。そうやって行くことで日本のスタートアップも成長していくと思っています」

多くの起業家を見てきた入山教授に「成功する起業家」の条件を訊いた。

「いちばん大切なのは情熱、パッションです。新しい事業に失敗はつきもの。一度コケても次、また次と突き進んでいくために情熱は欠かせません。そして人柄、まわりから愛される人物であるということ。ビジネスって結局ひとりではできないので、多くの人のサポートが必要になります。いっしょに働く仲間であったり、VCのような外部の人間であったり、みんなが応援したくなるような人柄でないと、やはりうまくいかない。この点、日本人は有利なのではないでしょうか。単独で何かを進めるより、チームで物事に取り組むほうが得意という人が多い気がします。世界と戦っていくにはこういう性質も大きな武器になるかもしれませんね」

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