連続起業は「点」ではなく「直線」だ。技術と資本を循環させる“森”の経営論
「連続起業家」という言葉から、私たちはどのような姿を想像するだろうか。次々と新しいアイデアを思いつき、既存の事業を売却しては全く別の領域へと飛び移る――。そんな点の移動を繰り返すイメージが一般的かもしれない。
しかし、数々の事業を立ち上げる起業家の一人、小間裕康氏の思考は、その真逆を行く。 「自分自身は、連続して新しいことを生み出しているつもりはない。すべては直線的につながっていて、今があるんです」
EV(電気自動車)ベンチャーのGLM、3Dプリンター住宅のセレンディクス、物流EVのフォロフライ、投資ファンドのクオンタムリープ・キャピタルパートナーズ。一見、バラバラに見えるこれらの事業は、実は「同じチーム」「共通の技術基盤」「資本の循環」という一本の強力な直線で結ばれている。
なぜ彼の事業は次々と連鎖し、巨大なエコシステムへと成長するのか。個人の才覚に頼らない、再現性のある「森の経営論」を解き明かす。
連続起業家の誤解
「新しいこと」ではなく「直線を伸ばす」という定義
多くの起業家が次は何が流行るかと外の世界に答えを求める中、小間氏の視点は常に内なる資産の連続性にある。
「実は、今の会社でも最初の会社を立ち上げた時の役員が入っていたり、前の前の会社から一緒にやっている広報メンバーがいたりします。チームが解散して新しく作るのではなく、信頼の積み重なったチームをそのまま次の事業へスライドさせていく。これが私のやり方です」
事業領域が変わっても、組織の核となる「OS」は変わらない。これにより、創業期に最もコストがかかる「信頼関係の構築」や「企業文化の醸成」をスキップし、初速を最大化できる。
また、小間氏にとっての直線は技術面にも及ぶ。家電販売の派遣事業から始まり、マーケティングの知識がEVの需要創出型プロダクト開発へつながりオーディオの知識がEVの音響や電子制御へつながり、EVで培ったロボット制御技術が3Dプリンター住宅の基盤となる。
「連続起業とは、いくつもの点を作ることではない。一本の直線をどこまで遠く、太く伸ばせるかの勝負なのです」
バックキャストが生んだ「EV」と「3Dプリンター住宅」の共通項

既存の積み上げ(フォーキャスト)を捨てる逆算の思考
新規事業が既存事業の延長線上にある限り、その成長は市場の既存の枠組みに縛られる。小間氏はこのフォーキャスト(積み上げ)型の思考を、ある時期を境に明確に捨てた。
「最初はピアニストの派遣から始まり、家電の販売員へと事業を広げました。それは今の自分から上を見て『どこまでいけるか』という積み上げでした。しかし、それでは市場規模の限界にすぐにぶつかってしまう」
そこで彼が取り入れたのがバックキャスト(逆算)の思考だ。「未来において、どの市場が最も巨大で、かつ変革が必要か」から逆算して、現在の事業を定義する。
自動車産業への参入という「逆算」
家電業界の再編を目の当たりにした小間氏は、次に最も巨大な産業は何かを考えた。答えは自動車産業だった。しかし、ゼロからガソリン車を作るのは現実的ではない。 「ちょうど大学院(MBA)で京都の電気自動車プロジェクトに出会いました。京都には日本電産(現ニデック)や京セラ、オムロンといったEVの主要パーツを担うグローバル企業が集積している。ここに家電の機動性と知識を持ち込めば、巨大な自動車産業に風穴を開けられる」 これがGLMの始まりだった。
3Dプリンター住宅への展開
セレンディクスにおける3Dプリンター住宅も同様だ。 「住宅業界は数十年、生産性が変わっていない巨大市場です。一方で、自動車産業ではロボットアームによる自動生産が当たり前。ならば、自動車生産のノウハウを住宅に持ち込めば、コスト構造を劇的に変えられるのではないか」
どちらも、現在の延長線上で考えれば畑違いの参入に見える。しかし、「巨大市場の不効率」を「既存の得意技術」で解決するというバックキャストの構造は、完全に一致している。
自社完結を目指さない「エコシステム(共生系)」の構築
アメリカ型の独占(モノポリー)に対する、日本流の「シェアリング」
小間氏のビジネスモデルの核心は、「独占しないこと」にある。GAFAに代表されるアメリカ型ベンチャーは、すべてを内製化し市場を独占する「モノポリー型」を目指す。しかし、巨額の設備投資が必要な「ものづくり」の世界でそれを真似れば、キャッシュがいくらあっても足りない。
そこで小間氏が提唱するのが「エコシステム(共生系)」による開発だ。
「例えばEVを作るのに200億円かかるとします。一社でそれを負担するのはリスクが大きすぎる。しかし、その技術を欲しがる企業が200社集まり、開発費をシェアすれば、一社あたりの負担は1億円で済む。これが私の考えるエコシステムです」
失敗できる場としてのスタートアップ
小間氏の元には、トヨタやソニーといった超一流企業のエンジニアや、大手企業の課長クラスが続々と集まってくる。なぜか。大企業には「失敗できない」という制約があるからだ。
「うちのCTOはよく『うちは失敗する場所なんだ』と言っています。大企業では試せない最先端の技術を、スタートアップという『箱』を使って試してもらう。その代わり、そこで得られた知見や部品の採用実績は大企業側に還元する。私たちは、日本企業全体がイノベーションを起こすための『失敗のプラットフォーム』を運営している感覚なんです」
この「開発費のシェアリング」と「失敗の許容」という構造があるからこそ、セレンディクスやフォロフライは、少人数のスタートアップでありながら、JRや丸紅といった巨大企業をパートナーに巻き込めるのである。
ヒト・モノ・カネの「わらしべ長者」的循環
「森」を育てるための資本投下サイクル
小間流の経営において、事業は単体での利益以上に「次の事業のための資産」として機能する。これを彼は「ヒト・モノ・カネ」の循環として説明する。
「まず最初に、ワクワクするビジョンで『人』を集める。その人たちが『物(製品・技術)』を作る。そして、その物が働いて『金(利益・企業価値)』を生む。しかし、ここで終わってはいけません。得られた金を、また新しい『人』と『物』に再投資する。このサイクルを回し続けることで、事業は『点』から『森』へと広がっていくのです」
ジョブホップをグループ内で完結させる
この「森」の経営には、人事戦略上の大きなメリットがある。 「優秀な人間ほど成長が早く、一つの会社に収まりきらなくなる。かつてはそれで辞めていく社員がいて悔しい思いをしましたが、今は違う。『この事業が形になったから、次はこっちの会社で新しい山を登ってくれ』と、グループ内で転職(ジョブホップ)を促せる。これにより、一流のタレントを逃さず、常に高い熱量を維持できるんです」
資産としての技術の横展開
また、一度開発した技術は、別の「森」でも活用される。 「EVトラックのフォロフライを立ち上げた時、GLM時代のエンジニアが再集結しました。彼らはすでにEVの作り方を熟知している。ゼロから学ぶ必要がないため、驚異的なスピードで製品化が進みました。過去の『失敗』も『成功』もすべて、次の事業の原価を下げるための資産になっているんです」
経済合理性とワクワクの「二軸」で生きる
戦略的な構造論を語る一方で、小間氏は「根底にあるのはワクワク感だ」と繰り返す。
「X軸にワクワク、Y軸にエコ(経済合理性)。この二軸が高い水準で交わる場所でしか、事業はやらないと決めています。どんなに儲かりそうでも、ワクワクしなければ人は集まらない。逆に、ワクワクしても経済合理性がなければ、それはただの遊びで終わってしまう」
多くの新規事業担当者が、社内の承認を得るためのロジック(経済合理性)ばかりを追求し、自分たちの「ワクワク」を置き去りにしてしまう。しかし、小間氏の歩みが示すのは、「強烈なワクワクを、緻密な構造論で支えること」こそが、最も成功確率の高い戦略であるという事実だ。
「成長は青天井です。自分で天井を決めず、既存の資産を直線でつなぎ、仲間と共に森を育てる。そうすれば、日本のものづくりはもっともっと面白くなるはずです」
一本の直線から始まった小間氏の挑戦は、今、広大な「森」となり、日本の風景を確実に変えようとしている。
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