学生起業は当たり前の選択肢へ─新たな時代の教育が拓く、起業という新しいキャリアの入口
起業は、一般的な選択肢ではなかった。
借金。失敗。孤独。
これまでの起業は、リスクばかりが強調され、“特別な挑戦”として語られてきた。
だが、現在は起業することは少しずつ“特別な挑戦”ではなく、学生を含め、起業はキャリアの1つとして現実的に検討される選択肢になり始めつつある。
フリー株式会社(以下freee)で起業情報メディア「起業時代」の編集長を務め、教育領域アライアンス推進チームで、高校・大学などでのアントレプレナーシップに関する講義の実施や、起業を志す学生の法人設立支援などに携わる、磯貝 美紀氏(以下磯貝氏)と、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部で学びながら学生起業を行い、株式会社Alphatiqueの代表を務める、畠中 詔摩氏(以下畠中氏)に、その背景にある社会の変化や、学生と起業のリアルな距離感を聞いた。
環境が変わった。だから学生が起業できるようになった

「ひと昔前までは、起業はすごい人がやる、かなりチャレンジングなことみたいな印象だったが今少しずつ変わってきています。」(磯貝氏)
磯貝氏は起業を取り巻く環境の変化は大きく「制度」「社会」「教育」の3つに整理し、こう語る。
「制度面では、会社設立のハードルが下がり、かつては株式会社であれば資本金1000万を用意しなければならず、起業は “資金のある人の挑戦” だった。ただ、現在は、最低資本金の撤廃を経て、大きな資金がなくても、小さく始められるようになりました。」
「次に、社会面では、キャリア観そのものに変化が起きており、今までは終身雇用や年功序列の働き方が当たり前でしたが、その前提が崩れ始めています。日本は言わずと知れた長寿の国で1人1人の長い人生に対して自分のキャリアを設計することが“当然の課題”になってきています。」
「最後に教育面では、2020年ごろより高等学校を中心に探究学習が本格的に導入され、自ら何かを探求的に学ぶ、何か自分がテーマを持ってそこに向き合うといった教育を受けている世代が現在、大学生になっています。そのような教育を受けてきた世代の中で畠中さんのような一部の活動的な方が行動を起こし、学生起業という選択肢を選んでいると思います。」(磯貝氏)
つまり制度・社会・教育の3つの構造変化により、起業は「資金のある人の特別な挑戦」から 「思いと行動力があれば、学生からでも小さく始められる現実的な選択肢」へと変わりつつあるようだ。
freeeの教育現場での取り組みのきっかけは1本のメール
企業が教育機関との連携を深め、教育現場での取り組みを始める。
その言葉だけ切り取ると、事業拡張のように見えるかもしれない。
しかし磯貝氏の話からは、別の理由が浮かび上がる。freeeが教育領域に踏み込んだのは、既存事業の会計サービスの延長線ではなく、freeeが展開する起業情報メディア「起業時代」の “ふつうの人が、フツーに起業できる時代”というミッションの延長線だった。
「きっかけは、起業家の挑戦を描く雑誌『起業時代』を見た高校の先生から、これを授業にしてくれないかという連絡でした。その後も大学からも同様の相談があり、何か私たちができることがあるのではないかということで今の組織が立ち上がりました。」(磯貝氏)
授業だけで終わらせない。動き出した人を支える仕組みへ
そうして会社のミッションをもとに立ち上がった教育領域アライアンス推進チームが実施するのは、単純な教育コンテンツの提供ではない。
メディアとして蓄積してきた「挑戦の事例」と企業の持つ起業における「伴走の知見」を、教育という場に持ち込めるかどうかだ。
ここで実施されている取り組みは、まさに実装型だった。
大学では、連携協定を軸にセミナーや授業を提供しながら、動き出した学生への個別支援までを行う。武蔵野大学を皮切りに、立命館大学・早稲田大学・芝浦工業大学、高校や短大などへ展開し、連携協定は全体で6校に拡大しているとのこと。
「現在単位授業として講座を行っている美容系の短大では、経営ノウハウを詰め込むのではなく、起業という選択肢の“種”を渡すことを重視しています。特に美容系の学生に対しては、将来の独立や小さな起業が自然につながる。その前段で「起業が選択肢に入っている状態」をつくることが価値になると考えています。」 (磯貝氏)
アントレプレナーシップ教育の価値のひとつは、学びを行動に変えるところにある。さらにfreeeの活動は動き出した人が孤独にならない設計があるから、起業が現実になる。
起業家の原点は才能ではなく余白と情熱
freeeの産学連携の活動を通して生まれてきた起業家が畠中氏だ。

中学時代、朝から晩まで勉強や部活を行うことに疑問を感じ夏休みに一度自分の時間の棚卸しを行いました。そこから週3回学校にいくという独自ルールを作り、余った時間で金融の勉強を始めました。」(畠中氏)
起業はスキルから始まるものではない。むしろ、時間の使い方から始まるのではないか。畠中氏の起業までのエピソードを聞き、考えさせられる。
畠中氏は中学生の頃、週5日学校に通うという前提そのものを見直し、週3通学を選んだ。そこで生まれた余白が、学びの密度を変えたと語る。
「空いた時間で本を読み、ネットで調べて学んでいきました。最初から誰かに教わったわけではない。調べれば情報がある世界だったから、自分で進めることができました。 」
このエピソードが示しているのは単なる畠中氏の早熟さではない。
起業の入り口は特別な恵まれた環境ではなく、意思決定の力をどのように自分で養っていくかにあるということだ。
現在、起業し代表を務める、株式会社Alphatique ではAmazon出品者向けの業務支援サービスを提供しており、出品者の財務・在庫・広告などを扱い、販売者の業務基盤になることを狙っている。
事業案が生まれたきっかけは、Amazon販売の実務経験を持つ大学教員との対話だった。教員との会話を通して、現場課題を学び、自分が過去学んできた金融×データ分析のスキルを活かすことで、EC領域に転用できると確信したとのことだった。
そして、畠中氏が描くのは「課金して収益を積む」モデルだけには留まらない。
ユーザーが利用するほどデータがたまり、自身のサービスが強くなり、その価値がユーザーに還元される循環を作ろうとしている。
「小さく稼ぐ」規模感ではなく、より大きなステージを見据えているようだ。
余白が生まれる。
没頭できる。
没頭が積み上がる。
そして、それがいつか事業になる。
学生起業の原点は、余白と情熱が重要だと感じた。
子供の次は、親のアップデート
さらに今の時代は子供だけではなく、大人もアップデートが必要だと磯貝氏は語る。
「起業に限らず、若い世代の挑戦を増やすポイントは2つで、1つは幼少期から没頭できるきっかけを増やすこと、2つ目は、親がブレーキを踏む側ではなく、並走する側に回ることだと考えています。特に2つ目のポイントは親側のアップデートが重要。子どもだけに挑戦を求めるのではいけない。親も、ちょうど、セカンドキャリアを考える年齢ですからね、親自身も、自分の未来を自分で創る姿勢を持てるかどうか。つまり、”伴走”ではなく、子どもと同時にそれぞれの道を走る”並走”です。それが、家庭内での挑戦の許容に繋がっていくと思います。」(磯貝氏)
起業がキャリアにおいて当たり前のように一つの選択肢となることは、単なる教育だけの話ではない。
社会全体の“挑戦の許容量”を増やす話でもある。
新たな時代の教育は、社会全体のキャリアの形を変えていく
制度が変わり、教育が変わり、キャリア観が変わった。
そして企業も、教育の場に入り始め、日本全体が大きく変化する予兆を感じる。
その結果として、起業は「特別な挑戦」ではなくなりつつあることが分かった。
探求教育、そしてアントレプレナーシップ教育は、起業家を増やすための教育ではない。
社会全体のキャリアのOSを更新していく可能性を秘めているのかもしれない。
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